◆  市川自然博物館だより  ◆

4・5月号

市立市川自然博物館  1994年4月1日発行

特集記事 街かど自然探訪 行徳野鳥観察舎だより いちかわの野生生物 観察ノート

 

やさしい生態学 1

行徳鳥獣保護区

行徳鳥獣保護区の「新池」。湿地の生態系が見られる。



特集記事



やさしい生態学 第1回 行徳鳥獣保護区

野鳥にとどまらない、豊かな自然が育ちつつある

  『行徳鳥獣保護区』は、鳥類、特に水鳥のための保護区です。隣接する「野鳥観察舎」では、望遠鏡でその姿を見ることもできます。しかし「今日は鳥が多く見られた」とか「少なかった」で済ませてしまうには、もったいない自然がそこにあります。「生態学」的な視点−−生物どうしの関係や環境との係わり−−で観察する時のポイントを、紹介します。

埋め立て地にぽっかり開いた水面

  行徳鳥獣保護区は、市内新浜3丁目に宮内庁新浜鴨場と隣接してあります。「新浜」は現在の地名では「にいはま」と読みますが、「しんはま」とも呼ばれました。この新浜鴨場が以前は海べりにあたり、場内では鴨猟、前面の干潟では千鳥猟が行われていました。
  行徳鳥獣保護区は、新浜鴨場の海側、東京湾岸を大規模に埋め立てた際に作られました。四角く海を残し、その一部に陸地を造成して、水鳥の飛来地としたのです。いまでは、住宅と工場にまわりをすっかり囲まれてしまいました。

保護区の位置(sz311.gif、約18KB)

干潟と湿地

  行徳鳥獣保護区ができる前、つまり埋め立てが行われる以前の行徳のようすは、引き潮の時に姿を現す広大な干潟と、その背後の陸地部分(いまは住宅が立ち並ぶ)に広がる水田や蓮田、アシ原などで特徴づけられていました。つまり、干潟と湿地です。そこには、水辺を好む、大小多種多様な生物が暮らし、もちろん野鳥も多く見られました。行徳鳥獣保護区には、そういう自然を残し再生する願いが込められています。ですから、干潟と湿地という2つの自然環境が、ここの自然を見る上でのポイントになります。

行徳鳥獣保護区の干潟

  行徳鳥獣保護区には、陸地部分に沿うようにして干潟が形成されています。幅の狭い帯状の干潟が大部分ですが、人工干潟とはいえ造成後20年以上が経過しており、いまでは、さまざまな生物が住みつき、お互いの複雑な関係、つまり生態系を作り上げています。
  微細なプランクトン、それらを食べる小さな魚たち(多くは幼魚や稚魚)、海水とともに餌を取り込む二枚貝、死骸を食べるカニ類、泥の中の有機物を食べるゴカイ類など、それらが食う食われるの関係にあったり、他の種類にすみかを提供したりしているのです。そして、シギ・チドリ類やサギ類、カモ類、カモメ類など、野鳥観察舎を訪れる人たちが目的とする鳥類は、そういった生態系の一部としてあります。
  行徳鳥獣保護区の干潟を実際に歩ける機会は、ごく限られています。しかし、望遠鏡で見る鳥の姿のかげには、そういう干潟の生態系があるのです。同時に、それは、海水を通じて結ばれている他の干潟や浅瀬とともに、東京湾奥一帯の大きな生態系を形づくっていると考えられます。

保護区の生態系(sz312.gif、約27KB)

行徳鳥獣保護区の湿地

  行徳鳥獣保護区の陸地部分には、池を中心としたいくつかの湿地があります。そのうち、6年余り前に造成された「新池」と呼ばれる湿地は、どぶ川を流れる家庭排水を水源とすることが特徴で、どぶ川の水の浄化と湿地の自然の再生を組み合わせた試みが、各方面から注目されました。
  「新池」には、池の造成後、さまざまな生物が住みつきました。それらは、ミジンコ類やユスリカ類、アメンボ類、トンボ類などで、多くは池や小川、田んぼで見られる種類でした。また、翅がないので飛んで来られないカダヤシなどの魚類やアメリカザリガニなどは、人の手で放されました。
  行徳鳥獣保護区の陸地部分には、池や田んぼを思わせるような、湿地の生態系が育ちつつあります。行徳鳥獣保護区というと多くの人が、いまでもスズガモの大群を思い浮かべるように、ここは、海辺の鳥が暮らす場所という印象が強くあります。しかし、「海」とか「干潟」という視点と同時に、ここの自然を観察する上では「池」、「湿地」あるいは「田んぼ」といった視点もまた大切です。

望遠鏡で見る干潟

  干潟の生物は、野鳥観察舎の望遠鏡を使って見ることができます。特に、6月以降の干潟はにぎやかで、引き潮の時に望遠鏡のピントを合わせてみると、チゴガニの求愛ダンスや、ヤマトオサガニが餌をとる様子、ピョンピョン飛び跳ねるトビハゼの行動などを観察することができます。
  また、4月はシギ・チドリ類が多く飛来するシーズン。干潟を舞台としたさまざまな行動を見ることができます。

園内観察会で見る湿地

  月に2回、催される園内観察会は、ふだん立ち入れない行徳鳥獣保護区の内部を見ることができる数少ないチャンスです。この観察会に参加すれば、陸地部分をぐるっと回ることができます。
  そこには、野鳥観察舎の窓から見える海辺の風景とは別の、池や湿地、草原といった風景が広がっています。春・夏なら繁殖中の野鳥の親子、秋・冬なら、アシ原で冬を越す小鳥たちに出会えるかも知れません。

生態系の変化を追う楽しみ

  行徳鳥獣保護区の自然は、造成後、さまざまに変化してきました。ただの埋め立て地がヨシやセイタカアワダチソウの茂る草原となり、かつて大群で飛来したスズガモが減り、セイタカシギが集団で繁殖したりしました。そういう記録をたどると、一口に「保護区」といっても、その様子が大きく変化していることがわかります。
  また、陸地部分にある池は、いずれも人の手で作られたものです。なかでも「新池」は、池に初めて水を注いでからの水質や生物相の変化が記録されています。そこからは、池や湿地の生態系のようすをうかがい知ることができます。また、今年の1月に通水された新しい池「みなと新池」は、水に若干の塩分が含まれる「新池」と違い、ほぼ淡水だとされています。この池にどういう生物が住みつき、その様子がどう変化していくのかが、注目されます。

〔参考文献〕
行徳鳥獣保護区の歴史、概要について
『よみがえれ新浜』(行徳野鳥観察舎友の会発行。観察舎で入手可能)
「新池」について
『せせらぎ1号発車オーライ』(行徳野鳥観察舎友の会発行。観察舎で閲覧可能)
『水鳥が戻ってきた』(蓮尾純子著、NTT出版発行。書店で購入可能)

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街かど自然探訪



主な河川(sz313.gif、約5KB)

高谷(こうや)、一級河川・高谷川

  市内に9本ある一級河川のうち、江戸川放水路の左岸を並行して流れるのが、高谷川です。一級河川とはいうものの、一見した姿は「どぶ川」で、水源は大部分が家庭からの生活排水です。水質は、かなり汚濁した状態にあります。
  しかし、水辺にはヨシが生え、コサギや、時にはカワセミが飛来します。餌を取れると思って、様子を見に来るのでしょうか? 都市にある水辺は、限られています。きっと、人間以上に水がきれいになることを願っているのでしょう。

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行徳野鳥観察舎だより



春はオニグモから

カット(sz314.gif、約2KB)   すーっ、と目の前に大きなクモがぶら下がった。冬中ずっと黒いしみのように天井にしがみついていたオニグモが、いよいよ活動を開始したのだ。室内には十分な獲物はいないし、玄関灯のあたりで冬越ししているクモたちにくらべ、がりがりにやせている。それでも、力つきてぽとりと落ちたわけではなく、ちゃんと糸をひいて降りてきたのだ。外に出してやったが、無事に網が張れただろうか。
  暖かくなったな、と思うと間もなく壁にはりついた卵塊から子グモがかえる。1ミリ足らずのクモの子が細い糸をひいてぞろぞろ動きだすと、糸が薄いガーゼのようにひろがる。数千匹もの子グモのうち、生きのびて来年の春を迎えるのは数匹どまり。しっかり。

(文と絵:行徳野鳥観察舎 蓮尾純子 )


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いちかわの野生生物




アズマモグラ(Mogera wogura wogura )

カット(sz315.gif、約6KB)   アズマモグラは、草地や農耕地、林ばかりでなく、住宅地の庭や公園といった私たちの身近におり、トンネルを掘ったときに出る土を押し上げてできたモグラ塚によって、容易にその生息を知ることができます。
  からだはでっぱりのない円筒状で、トンネル生活に適応しています。前肢は横向きにつき、強力な筋肉によって太く短い腕を回転させ、強大な爪のついた円く大きなスコップ状の手を水平方向で前後にかいて、土を効率よく掘れるようになっています。
  ミミズやコガネムシ、チョウ、ガなどの昆虫の幼虫を主として、地中や地表にいる小動物はなんでも食べる大食漢で、1日に自らの体重ほどの量の餌が必要です。
  このためモグラの生息数は餌の量により大きく変わります。湿潤で柔らかく土壌層の厚い、ミミズや土壌昆虫などの餌動物が多いところではモグラの生息数も多く、都市化が進んで土壌が硬くなり餌動物が少なくなると、モグラの生息数は激減します。

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わたしの観察ノート No.13



◆大町自然観察園より
◆柏井雑木林より
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◆北方遊水池より
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