◆  市川自然博物館だより  ◆

6・7月号

やさしい生態学 2

柏井雑木林

市立市川自然博物館  1994年6月1日発行

特集記事 街かど自然探訪 行徳野鳥観察舎だより いちかわの野生生物 観察ノート

 



特集記事



やさしい生態学 第2回 柏井雑木林

生物の多様性をささえる雑木林

  林では、植物や昆虫、鳥類、哺乳類など様々な生き物が生きています。『柏井雑木林』は、市川市内では少なくなってしまった、こうした林の自然に触れることができる貴重な場所です。生物どうしの関係や環境とのかかわりといった生態学的な視点から林を観察するさいのポイントについて紹介しましょう。

市川市と船橋市にまたがる林

  『柏井雑木林』という名称は、自然博物館で名付けたもので、この林は市川市柏井町2丁目から船橋市藤原町にかけての最大で南北1km、東西 0.4kmの地域に拡がる大きな林です。
  林の面積は全体でおよそ13ヘクタールほどあり、市川市側が約 7.5ヘクタール、船橋市側で約 5.5ヘクタールです。13ヘクタールの林というのは、市川市内では他に例がなく大町公園自然観察園の 9.3ヘクタール、小塚山市民の森の3ヘクタール、堀之内貝塚公園の 3.2ヘクタールといった他の緑地の面積と比べるとその広さが分かります。
  また、市川市内の林は、大部分が台地と低地の境にあたる傾斜した土地にある奥行きの浅い斜面林ですが、柏井雑木林は、台地上にひろがる平坦な林であることも大きな特徴です。

柏井雑木林の位置(sz321.gif、約13KB)

柏井雑木林のなりたち

  雑木林とは、主にイヌシデやコナラ、エゴノキ、クヌギなどの落葉広葉樹からなる林のことです。柏井雑木林のなりたちを考えるために古い地形図を調べてみると、ほぼ全域が落葉広葉樹の林ではなく、針葉樹の林であったことが分かります。現在の林内にアカマツが点々と残っていることから推察すると、もともとはアカマツの林であったようです。明治時代までは、大柏地区の松の葉や薪が行徳塩業の貴重な燃料源として売買されていたことからも、昔から松林が多かったことがうかがえます。
  松林は、なんらかの理由で放置されるとイヌシデやコナラ、エゴノキなどの若木が生長してきて、雑木林へと姿が移り変わってきます。柏井雑木林では、マツノザイセンチュウによる松枯れ病で多くのアカマツが立ち枯れしたり、弱ったままで放置されたようです。柏井雑木林は松林から移り変わった、そうした雑木林のさまざまな姿が見られます。
  また、場所によっては、下草刈りや倒木、枯枝の除去などの管理や、スギの植林といった人手の加わっていた林も見られます。イヌシデやコナラ、エゴノキなどの雑木林の樹種は、伐採することによって、切り株から新しい芽が伸びる性質があります。この性質を利用して、昔は薪や炭の材料を得るために必要な樹種だけを残して雑木林を作り上げ、管理していたのです。柏井雑木林を歩き回って、少しずつ異なる林の姿を観察してみると面白いでしょう。管理された雑木林の面影は、市川市民キャンプ場の周辺で見られます。

林外と異なる林内環境

  夏、柏井雑木林の中を歩くと、樹木の葉によって被われて日陰になった林内は、林外の暑さに比べて、ひんやりとさえ感じます。特に地表面の温度は林外より10℃ぐらい低く変化の少ない安定した状態になっています。また、林の縁には、マント群落と呼ばれるミズキやゴンズイなど様々な低・中木が生い茂り、林外の暑く乾いた風が吹き込むのを抑えて、林内、特に林床の乾燥を防いでいます。こうして雑木林の中は緑のマントにすっぽりと被われて、温度や湿度の変化が少なく生物の生活しやすい環境を作りだしています。
  柏井雑木林ばかりでなく、林はたいがい樹木によって外界と遮断され、安定した環境を作りだす効果がありますが、林の面積が広いほどより外界の影響を受けにくい安定した環境を作り出すことができます。
  また、一年中うっそうとした常緑樹の林と比べ、雑木林は四季によって林の姿も移り変わり、林内の環境も周期的にゆっくりと変化していきます。こうしたことから、雑木林は、季節に応じてより多様な種類の生物が暮らせる環境になっているのです。

柏井雑木林の生態系(sz322.gif、約33KB)

雑木林は昆虫のふるさと

  昆虫は食べ物の選択性がとても狭く、種によって餌となるものが限られています。それぞれの種類が餌に合わせて、すみかや行動、体の構造までも特殊化して、多種多様に分化しています。雑木林はそうした昆虫に様々な餌やすみかを与えてくれます。
  雑木林には多くの植物が生育しているため、それを餌とする昆虫も豊富です。雑木林の昆虫の代表といえば、クヌギやコナラの樹皮ににじみ出てくる樹液を吸う昆虫達でしょう。カブトムシやノコギリクワガタカナブン、ヨツボシケシキスイなどの甲虫やゴマダラチョウ、ルリタテハ、クルマスズメなどの蝶や蛾、オオスズメバチなども集まります。樹液を吸う昆虫以外にも草木の葉を食べるもの、花粉や蜜を食べるもの他の昆虫を食べるもの、そして落ち葉や枯れ木を食べるもの、動物の死体を食べるものなど様々な昆虫が雑木林の地中から樹の上まで数多く暮らしています。
  自然の豊かさの度合いを知る目安の一つに生物の多様性があります。多様性とは、ただ生物の種類数が多い少ないということではなく、食う食われるの関係が、複雑か単純かということです。
  様々な種類の植物が、様々な種類の昆虫に食べられます。そしてその昆虫を捕まえて食べるヒキガエルやトカゲ。さらにはヘビや多くの鳥類、モグラやアカネズミ、ノウサギ、イタチなどの哺乳類も柏井雑木林には数多く暮らしていて、様々な食う食われるの関係をつくり出しているのです。

猛禽類のすむ林

  柏井雑木林での様々な生き物の食う食われるの関係の頂点に君臨するのは、猛禽類と呼ばれる、小動物を捕らえて食べるタカやフクロウです。
  柏井雑木林で毎月観察を続けている柏井研究講座の皆さんの観察では、柏井雑木林でオオタカがキジバトを捕らえて食べている様子や、フクロウがアカネズミを食べたあとに吐きだしたペリットなどが見つかっています。フクロウは一晩に2〜3匹のアカネズミを食べると言われていますから、フクロウが生活するためには多くのアカネズミが生息していなければならないのです。さらに数多くのアカネズミが食べ尽くさないだけの餌が必要になります。一羽の猛禽が暮らしている林は、それだけで数多くの生き物が暮らす多様性の高い林だということができます。

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街かど自然探訪



カット(sz323.gif、約14KB)

高谷新町・埋め立て地にできた磯

  高谷新町は、市内の埋め立て地としては最も古く、昭和34年から37年にかけて埋め立て事業が行われ、37年10月に市域に編入されました。当時は「田園都市から産業都市へ」のスローガンのもと、埋め立て事業が次々と推進されました。
  それから30年、不毛のコンクリート護岸にもさまざまな生物が住み着きました。ムラサキイガイやマガキが護岸を被い、そのすき間にイソガニなどのカニ類や他の小さな生き物が暮らしています。磯を思わせる雰囲気が出てきました。

 


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行徳野鳥観察舎だより



水門の魚群

カット(sz324.gif、約5KB)   5月19日昼、千鳥水門の潮の変わり目に行きあった。保護区内の潮の干満を一手に引き受けた巾3mの水門では、いつもごうごうと潮が流れている。日に4回の潮どまりはほんの数分で、すぐ逆方向へ水が動きだし、30分もたたないうちに再び激しい水流が起こる。
  海面近くのおびただしい魚群に気づいた。ぐるぐる泳ぎまわっているらしい。数百、数千、もしかしたら数万尾。20・ほどの魚が水をくろぐろと染めて一斉に同じ方向へ動き、身をひるがえすと銀色の腹が水中でぎらっと光る。水流に餌をもとめているのか、たぶん若いボラだろう。メダカ大の小さいのも数百尾の別群をなし、もっとゆっくりと泳いでいる。そのみごとさ、時間を忘れてみとれた。

(文と絵:行徳野鳥観察舎 蓮尾純子 )



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いちかわの野生生物




ホンドタヌキ(Nyctereutes procyonoides viverrinus )

カット(sz325.gif、約9KB)   ホンドタヌキは、人里にすみ、昔話やおとぎ話でもなじみ深い身近な動物です。
  市川市では、昔は数多く生息していたようですが、1970年代に実施された環境庁の調査では、タヌキの生息は確認されず、一度は市内から姿を消したと考えられます。最近になって、市の北部の台地地域を中心に市街地でもタヌキの目撃例や交通事故による死体の発見等が増えてきました。さらに、1989年には北国分の考古博物館の床下で繁殖が確認され、今年5月には真間5丁目の住宅の床下で、生後まもない6匹の仔ダヌキが発見されています。
  タヌキは日中は巣穴や茂みに休み、夜間人目につきにくい道路脇の排水溝などを通路として、市街地に残された緑地や緑濃い住宅地などを行き来しているようです。タヌキは雑食性で昆虫やカエル、木の実や果実などや、町中では残飯など何でも食べます。こうしてねぐらと餌を確保して、町中に少しずつ生息域を拡げつつあるようです。

 

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わたしの観察ノート No.14



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