◆  市川自然博物館だより  ◆

8・9月号

やさしい生態学 3

国府台・真間山の林

市立市川自然博物館  1994年8月1日発行

特集記事 街かど自然探訪 行徳野鳥観察舎だより いちかわの野生生物 観察ノート

 



特集記事



やさしい生態学 第3回 国府台・真間山の林

都市に残る照葉樹林

  東京から総武線や京成線で市川に向かってくると、江戸川を渡るあたりから国府台、真間山の林の姿が真先に眼に飛び込んできます。国府台、真間山の林は、都市化した市川のなかでも、照葉樹を中心にした特筆すべき林です。市街地に残る照葉樹を中心とした林の生態学的な意義について、紹介しましょう。

台地をふちどる斜面林

  国府台、真間山は東葛台地の西の端にあたり、台地上は広く平坦ですが、台地が低地に臨むところは急な斜面になっていて、一部では崖をなしています。『真間』とは、急崖を意味する地名ともいわれていて、この急な斜面は、氷期の海面低下により、川によって深く削り取られたもので、およそ20mの比高差があります。
  国府台、真間山の林は、この台地の縁を取り巻くようにして、里見公園のあたりから江戸川に沿って南下し、東へ折れて真間山に至る延長約2kmの斜面林です。
  低地側から国府台、真間山の斜面林を見上げると、鬱蒼とした奥行きの深い林を思わせますが、実際には急な斜面にはりつくようにして樹木が生える、奥行きの浅い細長い林であることが特徴です。
  林の様子は一様ではなく、真間山のあたりは一年中緑濃い、照葉樹(常緑広葉樹)を中心とした林が残り、里見公園の周辺では、クロマツ林の名残りがある雑木林になっています。

林の位置(sz331.gif、約13KB)

照葉樹の林

  真間山弘法寺の高い石段をのぼりきった東側の斜面は、大きなスダジイが生えならぶ林になっています。スダジイは、暖温帯の海岸に近い地方に多い照葉樹の代表種です。真間山のように直径50〜60・の大木のスダジイの林となるためには、少なくとも数百年の歳月が必要であり、この林は、市川あたりで人手が加わらずに自然のままに放置されたときに至る、究極の林の姿(極相林)にもっとも近いと考えられます。
  石段の西側の斜面には、タブノキが多くなり、スダジイとタブノキのまじった林となっています。さらに西側の斜面には、クスノキの大木からなる林がひろがります。タブノキもクスノキも暖温帯の沿岸部の代表的な照葉樹のひとつです。タブノキは江戸川に面した里見公園下の斜面林でも主要な樹種になっていて、極相林に近い林の状態をかたちづくっています。
  スダジイやタブノキなどの照葉樹の極相林は高木、亜高木、低木、草本といった高さ別の各層がはっきりと分かれていて、林内には他の樹種の芽生えや幼木が少なく、常に種類変化がおこっているマツ林や雑木林に比べると、種類変化の少ない安定した状態が長く続くようになっているのが特徴です。
  林内は樹冠を被ったスダジイやタブノキといった高木層の葉によって光が遮られて暗く、鬱蒼としています。照葉樹の林は、こうした雰囲気から、古来より人々に畏怖の念をもって見守られ、特に信仰との結びつきが強く、神々の宿る森として大切にされてきました。国府台、真間山の照葉樹の林も、寺社林として大切にされ、都市化が進むなかで現代に伝えられてきた貴重な自然といえるでしょう。

植生の概略(sz332.gif、約22KB)

クロマツ林の名残り

  江戸川に面した里見公園の北側の斜面には、古い写真などを見ると、もともとクロマツの立派な林がひろがっていました。
  クロマツは海沿いに多い樹種で、国府台真間山の台地上ばかりでなく、低地の市川や八幡などの市街地の市川砂洲上にも大木が数多く残っていて、「市の木」にも指定されています。
  現在では、クロマツの純林はすでに姿をかえていて、斜面林を江戸川の堤防から見ると、コナラを中心とした落葉樹林の上にクロマツが頭を突き出したような姿になっています。さらにコナラの下層には、スダジイやシロダモなどの照葉樹が成長してきています。生態学の教科書に従えば、クロマツ林からコナラなどの落葉広葉樹林へ移りかわってきており、さらに、やがては照葉樹が天下をとって、自然に真間山の林のようになると考えられます。しかし、そうした変化の結果が見られるのは、まだまだ先のことでしょう。

都市にひろがる緑の道

  国府台、真間山の林は、都市に大樹がまとまって残る数少ない照葉樹の林であり、「市川らしさ」を表す景観として、また学術的にも大変貴重な林です。
  さらに、長年にわたり野鳥の種類や数を調査した結果を分析してみると、江戸川にそって長く拡がるこの林は、春、秋の渡り鳥が通過する際の貴重な存在になっていることが分かってきました。
  様々な小鳥類が観察されていますが、特に、林で生活するメボソムシクイやエゾムムシクイなどのムシクイ類、ムギマキやエゾビタキなどのヒタキ類、ウソやコイカルなどのアトリ類をはじめ、カッコウ類なども渡りの途中に一時的に休息し、体力を回復する場所として数多く利用していることが観察されています。
  また、夏鳥であるアオバズクの繁殖場所にもなっており、さらに今年は真間山のスダジイにできた樹洞で、フクロウが子育てに成功しています。
  国府台、真間山の林は、タヌキの生息にもどうやら貴重な役割を果たしているようです。この周辺では、数年前からタヌキの目撃が増えてきており、昨年(1993年)には千葉商科大学の構内で、若いタヌキが捕獲されたり、今年(1994年)には真間5丁目で生後間もない子ダヌキが発見されたりしています。また、江戸川の河川敷周辺でも交通事故にあったタヌキが見つかっています。2kmにも続くこの林は、例えていうなら市街地の中の『緑の道』を形作っています。タヌキはどうやらこの『緑の道』を利用しているようです。
  市街地では、公園や庭園など、島状に林や緑地が残されたり、形作られることはあっても、周辺を人工物に取り囲まれているとタヌキのような野生動物は生活場所に利用できません。国府台、真間山の林は、市街地に暮らす野生動物にとっても、大変貴重な環境であるといえるでしょう。

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街かど自然探訪



地図(sz333.gif、約29KB)

国分・坂とアリジゴク

  北部の台地と南部の低地の境界に位置する国分には、台地の縁にあたる部分に斜面や崖が多くあります。道にも坂道が多く、そのうちの何本かは斜面林をくぐりぬける小道になっています。
  そこでは、大きな木の根元がむきだしになり、それが屋根のように覆いかぶさる下に、アリジゴク(ウスバカゲロウの幼虫)の巣がいくつも見られます。乾いた土をすり鉢状にした巣で、その底に幼虫がひそむのです。林をぬける坂道は、アリジゴク探しの好ポイントです。

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行徳野鳥観察舎だより



ツバメのねぐら

カット(sz334.gif、約3KB)   午前3時半。わが家のちょうど前あたりでツバメの群れがしきりに鳴き交わしはじめる。丸浜川のアシ原かUFO島か正確な位置はわからないが、相当な数がいるようだ。4時ごろになるともう飛び立つらしく、まだ暗い上空から声が聞こえてくる。
  日中は丸浜川の水面や芝生すれすれをかすめて飛ぶ小気味よい姿を楽しんでいるが、夕方になるとがぜん数が増え、上空を何十羽もの群れが飛ぶこともある。午後7時、あたりがかなり暗くなるころになると、またわが家の前のどこかにツバメが集まってくるのが、鳴き声でわかる。
  ツバメのねぐらがこれほど間近にあるというのに、いまだにねぐら入り、飛び立ちとも確かめていない。我ながらなんとも怠慢!

(文と絵:行徳野鳥観察舎 蓮尾純子 )


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いちかわの野生生物




アブラコウモリ(Pipistrellus aburamus )

カット(sz335.gif、約6KB)   アブラコウモリは、市内で普通に見られるコウモリで、日が沈む頃、市街地の公園や空き地、田畑のような開けた場所、遊水池、川などの上空を飛んでいます。
  アブラコウモリは、木造住宅の屋根裏や雨戸の戸袋、瓦下などの狭い割れ目などにねぐらを集団でとることから、別名イエコウモリとも呼ばれていて、人間の暮らす場所に適応したコウモリです。近頃はコンクリート建築やプレハブ住宅の換気孔、橋や高架道の梁のすき間なども利用するといわれていますが、市川市内でのねぐらについては、まだほとんど分かっていません。
  夜間に飛び回る蛾や甲虫、ウンカなどの昆虫を主な餌としており、口から超音波を発して、反射してくるエコーを聞き分けて、飛んでいる昆虫の位置をすばやく探知して、空中で捕らえます。一日に食べる昆虫の量は、体重(7グラム前後)の3分の1に相当するといわれ、害虫の駆除などにもひと役かっているようです。

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わたしの観察ノート No.15



◆大町自然観察園より
◆北方遊水池より
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◆里見公園より
◆江戸川放水路より

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