◆  市川自然博物館だより  ◆

10・11月号

やさしい生態学 4

大町自然観察園

市立市川自然博物館  1994年10月1日発行

特集記事 街かど自然探訪 行徳野鳥観察舎だより いちかわの野生生物 観察ノート

 



特集記事



やさしい生態学 第4回 大町自然観察園

谷津の自然を残す水の公園

  台地を樹状に刻み込んだ谷のことを、谷津(やつ)と呼びます。谷津には、豊富な湧水に育まれた多様な自然があります。しかし、近年埋め立てられることが多くなり、今では市内で谷津と呼ぶのにふさわしい場所は、大町自然観察園くらいになってしまいました。
  今回は自然観察園で見られる、谷津の自然を紹介します。

谷津と湧水

  一般に谷津は、湿地とそこをとり囲む斜面林で構成され、自然観察園の場合では、湿地部分で長さ約1km、幅約50mにわたっています。周囲の台地上には、梨畑が拡がっていて、これは雨水に由来する自然観察園の湧水にとって重要な存在となっています。
  自然観察園の周辺に降った雨は、住宅地のように側溝を通って川へ流出することなく、広大な梨畑の地面に吸い込まれます。地中には、水を含みやすい地層があって、この地層がタンクの役目をして雨水を地下水として貯えます。自然観察園は台地を刻み込んだ谷ですから、この地下水を含んだ地層の切り口が斜面に表れていて、そこから水が湧き出します。湧き出し口は一ヵ所ではありません。斜面のすその、あちらこちらにあります。また、地層に含まれた水は少しずつ湧き出すので、今年のような渇水の夏でも、湧水が涸れることはありませんでした。

自然観察園の位置(sz341.gif、約13KB)

湧水がつくりだす湿地の環境

  自然観察園では、水の状態の違いにより、多様な環境がつくりだされています。
  谷の奥部や斜面のすそには、湧水の小さな流れがあります。湧水は温度が年中一定(15℃前後) なので、夏の暑さや冬の寒さにかかわらず、この流れは水温の変動が小さいことになります。また、絶えず水が動いていることや水底が砂であることも、自然観察園の他の場所にはない特徴です。オニヤンマの幼虫やサワガニが見られたり、スナヤツメが産卵するのは、おもにこういった流れです。
  谷を少し下ると、田んぼのような場所になります。開けた水面の、ごく浅い池がいくつかあり、ハスやコウホネ、ハナショウブが植えられています。湧水は、ここに流れ込むと、動きがゆるやかになりたまった状態になります。太陽の光が水底まで充分に届くため、特に春から秋にかけては水が温められ、多量のプランクトンや微細な生物が発生します。そこから水生昆虫やカエル類、魚類や鳥類などによる複雑な食物連鎖が形成され、この一帯は自然観察園のなかでも、もっとも、多様な生物が見られる場所になっています。

観察園の谷津(sz342.gif、約40KB)


  谷の中央部では、湿地は中〜大型の草に覆われます。大部分はヨシやカサスゲで、ところどころにガマやマコモが混じり、全体に植生は単純です。枯れて湿地に厚く堆積した植物には、水がスポンジのように含まれています。しかし、水の流れやたまりが無いこと、空間が密につまっていること、植生が単純なことなどによって、生物はそれほど多くありません。ただ、うっそうとしたヨシ原は、隠れ場所として役立っているようです。
  湿地の一部には、ハンノキがまとまって生えている場所があります。ハンノキは、湿地に生育できる数少ない高木の一つで、最初は植栽しましたが、今では自然に増加しています。一昨年、このハンノキに囲まれた場所に池を掘ったところ、木々に囲まれた池を好むクロスジギンヤンマがすかさず産卵にやってきました。またハンノキがあると、種子を狙ってマヒワの群れが来ることもあります。この一群のハンノキは自然観察園の湿地にアクセントを与えているといえるでしょう。
  谷をさらに下ると、大きな池があります。自然観察園で湧いた水がすべて集まる池で、年間を通じて水量は豊富です。この池は、数年前のバラ園の造成にともなって、ヨシ原を掘ってつくったものです。噴水があり、多数のコイが放され、現状では水草もほとんどない状態なので、残念ながら多様な生物が住み着くまでには至っていません。でも、カワセミやカモ類が見られるようになったのは、ヨシ原ばかりだった当時の自然観察園に出現した、この広い水面のおかげでした。

連続している湿地と斜面林

  ここまで、おもに水の状態に着目してきました。しかし、自然観察園に多様な生物が生息できる要因は、湿地や池、湧水の流ればかりではありません。それらが斜面林と連続して存在し、ひとつの環境になっていることが重要です。
  たとえばオニヤンマは、湧水のごく浅い流れに産卵し、幼虫は流れの砂底にもぐって暮らします。一方、成虫の休息場所には斜面林が利用され、交尾も木の枝にとまってなされます。つまり、産卵や成長の場としては湧水の流れが、休息や交尾の場としては斜面林が必要なのです。
  湧き水の流れや池も含めた広い意味での湿地、そして斜面林、この2つの環境こそが谷津の環境であり、それらが巧みに入り組んだ谷津は、自然観察園で見られるように多様な生物の貴重な生息場所なのです。

おわりに

  湿地は、放置しておくとどんどん状態が変わります。浅い池には草が生え、やがてカサスゲやヨシが覆います。ヨシ原は場所によって乾燥し、クズやセイタカアワダチソウが侵入します。湧き水の流れも時とともに埋まっていきます。
  自然観察園の多様な環境を維持するためには、人為的な管理が必要です。現在の自然を維持し、さらに豊かな生態系がつくられるように、試行錯誤が繰り返されています。
参考文献
『大町自然観察園』 (発行:市立市川自然博物館)


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街かど自然探訪



カット(sz343.gif、約10KB)

幸・ウグイス(市民の鳥:昭和51年決定)の声が…

  塩田の跡地や埋立地が大半を占める行徳地区、緑を求めて庭や公園、マンションの一角などに木が植えられます。東京湾を間近に控えた幸も、こういった町並みのひとつです。
  ところでこれらの緑、じつは視覚的な効果だけではありません。冬から春にかけて市内全域で見られるウグイスにとって、これらの緑は身を潜める貴重な空間なのです。数年前の調査では、行徳地区でもウグイスのさえずりがかなり聞かれることがわかりました。その中には、幸からの報告もありました。

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行徳野鳥観察舎だより



アマツバメ

カット(sz344.gif、約3KB)   静岡の路上で拾われたアマツバメが入院してから10日あまり。軽い衝突事故らしい。野外では空高く飛ぶ姿しか見たことがないが、間近で見るとなかなか面白い。ヨタカと同じく耳まで裂けた大口、指が前を向いた短い脚はコウモリそっくりで、足首まで毛が生えている。壁に止めるとどんどんよじのぼり、天井につかえると、もがいたあげく落ちてくる。
  極端に長い翼のため、飛び立つには高いところから落下する勢いが必要だ。初めはただ、ぼとっと真下に落ちたが、このごろは、ぱたぱた羽ばたいて斜め下方に飛ぶようになり、少しずつ水平飛行に近づいてきている。あと何日かのうちにベランダか屋上から思い切って落として飛ばせてみようかと思っている。

(文と絵:行徳野鳥観察舎 蓮尾純子 )


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いちかわの野生生物




ホンドアカネズミ(Apodemus speciosus speciosus )

カット(sz345.gif、約4KB)   アカネズミは、林に暮らす中型のネズミで、その名が示すように背側が美しい茶褐色の体毛で覆われ、腹側は鼻の下面まで白い体毛が生えています。日本では、8つの亜種が生息し、市川では、ホンドアカネズミが雑木林などで普通にみられます。
  アカネズミは群れをつくらず、単独で生活をしています。モグラのトンネルなどを上手に利用したりして地下に巣穴を掘りますが、ほとんどは地表ですごし、樹上に登ることはまずありません。
  夜行性で、昆虫などの小型無脊椎動物や植物の種子を食べます。特にクヌギ、コナラなどのどんぐりを集めて、落ち葉の下や巣穴に貯めておいて食べる性質があり、種子の運搬や散布に貢献しているといわれています。
  春から秋の間に何度も繁殖し、多数の子を産み育てますが、多くはイタチなどの肉食獣やフクロウなどの猛禽類に捕食され、増えすぎることはないようです。

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わたしの観察ノート No.16



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