◆  市川自然博物館だより  ◆

2・3月号

市立市川自然博物館  1995年2月1日発行

特集記事 街かど自然探訪 行徳野鳥観察舎だより いちかわの野生生物 観察ノート

 

やさしい生態学 6

市内の水辺

大柏川調節池(通称・北方遊水池)

  自然環境を重視した「水害を防ぐための調節池」として、これから整備が進められる。整備が進めば、市の中央部に市内最大の淡水の水辺が出現する。「面」としての広がりを持つ淡水の水辺に、豊かな自然環境の創出という点で期待がかかる。



特集記事



やさしい生態学 第6回 市内の水辺

〜生き物に優しい水辺とは・・・〜

 住宅ばかりが立ち並ぶ市川市−−その所々に、隠れるようにして小さな水辺が残っています。それらは、公園だったり、調節池だったり、かろうじて稲作が続けられている水田だったりしますが、そのそれぞれに、生き物が暮らす環境としての長所・短所があります。いくつかの水辺を比較して、都市における淡水の水辺のあり方を考えてみます。

市内の水辺(sz361.gif、約4KB)

池と小川

 淡水の水辺と言った場合に、すぐに思いつくのは池と小川です。しかし、現在の市川市にはほとんど見当たりません。狭い池と短かい小川が、わずかにある程度です。そして、それらは昔から、あまり多くはありませんでした。
 もちろん、稲作に関連した小さな池や、暗渠になっていない小川は、今よりも多くありました。しかし、例えば手賀沼のような、「面」としての広がりをもつ池はありませんでした。
 それでは、このへんは、水に乏しい場所だったのでしょうか?

田んぼとともに

 博物館の調査によると、戦前まではホタルやイモリといった水生生物が、身近なところで、普通に見られました。そして、それらの存在を支えていたのは、田んぼでした。
 田んぼは、現在の市川市に相当する地域の半分以上の面積にわたって広がっていました(右図参照)。そして、田んぼには少なくとも春〜夏の期間、一面に水が張られます。浅い池のような環境になるわけです。
 これまでは、田んぼが水辺としての役割を担ってきました。

田んぼの減少(sz362.gif、約24KB)


水辺のあり方を考える

 田んぼは、都市化とともに、ほとんど姿を消してしまいました。ですから、これからは池や小川(小河川)が、市内の水辺としての役割を担っていかなければなりません。しかし、それらの現状は、どうなっているのでしょうか? 市内の水辺のいくつかを取り上げ、次のような点からチェックしてみました。
【水辺のチェックポイント】
1.水 源:
安定して水が得られるかが重要なポイントです。
2.水 質:
飲めないまでも、ある程度はきれいでないと……
3.多様性:
さまざまな生き物が暮らすには、水辺の植生などが多様である必要があります。
4.広がり:
「面」としての広がりは、忘れがちなポイントです。
【市内の水辺をチェックする】
 市内の水辺を、「谷津」「田んぼ」「池」「小河川」の4つに大別し、それぞれを代表する場所についてチェックしてみました。(下記の表を参照)
自然観察園
 全体的には理想的な環境ですが、「広がり」に課題があります。周回園路が、狭い谷底の広がりを、一層阻害しています。
じゅん菜池公園
 都市公園的な池が大半を占めているので、「多様性」に大いに課題があります。
大野町4丁目の田んぼ
 冬でも、所々に水がたまった、生き物が住みよい田んぼですが、埋め立てが進み、「多様性」「広がり」が減少気味です。
大柏川調節池(北方遊水池)
 形が正方形で「面」としての広がりがありますが、植生の管理がされていないため、「多様性」が乏しくなっています。
行徳鳥獣保護区
 最大の課題だった「水源」問題が、生活排水の利用で、解決されつつあります。
大柏川
「水質」が最大の問題点です。


〜市内の水辺の環境チェック〜


凡例 [ :良い  :課題あり  :大いに課題あり] 

  場所 水源 水質 多様性 広がり 特徴
谷津 自然観察園 谷津を代表する生物が見られる。(スナヤツメ、ホトケドジョウ、サワガニ、オニヤンマなど)
湧水と井戸水で安定 湧水と井戸水はきれい 植生管理されている 周回園路が阻害
じゅん菜池公園 部分的に谷津本来の環境が残っており、斜面林と湿地を行き来するヒキガエルの産卵などがある。
湧水と井戸水で安定 湧水と井戸水はきれい 都市公園的で単調 周回園路が阻害
大野町4丁目の
田んぼ
冬でも水たまりがあり、ニホンアカガエルの産卵場である。また、タゲリやタシギが越冬する。
湧水と小川で安定 湧水と小川はきれい 単純化しつつある 埋め立てが進行中
大柏調節池
(北方遊水池)
オオバンの繁殖をはじめ、多彩な水鳥が飛来する。付近でタマシギやホオアカも繁殖した。
湧水がたまって安定 湧水はきれい ヨシ、ヒメガマの繁茂 釣り人が入り込む
行徳鳥獣保護区 埋め立て地に作った人工の池に、少しずつ自然が回復しつつある。セイタカシギの繁殖地。
生活排水は安定水源 リン、窒素が多い 植生管理されている 人の侵入がない
小河川 大柏川 時たま、コイやカダヤシなどの魚が見られるが、それらは「いる」だけで世代を重ねられない
生活排水は安定水源 生の生活排水は汚い 単調な護岸のつくり 川幅が広くなった


水辺のネットワーク(sz363.gif、約6KB)

点をつないで

 生き物が暮らしやすい、つまり、生き物に優しい水辺としての役割を、これからは池や小川(小河川)が担わなければなりません。しかし、かつての田んぼのように、市域の半分以上を水面にすることは、もうできません。むしろこれからは、「点」として存在する水辺を増やし、それらを結ぶことで「面」としての効果を生み出すことが重要です。
例えば、トンボやゲンゴロウなどの水生昆虫は、点在する水辺を辿ることで、産卵する池を少しずつ増やし、結果として、分布を広げることができます。また、繁殖・越冬・採餌や一時避難など、さまざまな形で水辺を利用する水鳥も、小さくても、多様な環境の水辺が多くあれば、今以上に、多くの種類が飛来するかもしれません。

自然豊かな都市の水辺をめざして

 市内の水辺のいくつかでは、さまざまな人の手で、自然を豊かなものにするためのつぎのような試みがなされています。
 自然観察園では、一昨年、トンボを増やすための浅い池づくりが試みられました。その結果、市内では30年ぶりというヨツボシトンボの飛来が確認されました。
 じゅん菜池公園では、長い間、水草などの水生植物の育成が試みられています。水生植物の有無は、その水辺に住める生物の多さを左右する決定的な要因の一つです。
 行徳鳥獣保護区では、淡水水源の確保がむずかしい湾岸地区において、生活排水を浄化して水源とする池づくりが試みられています。その試みは、まだ現在進行形ですが、セイタカシギの繁殖という成果がすでに得られています。
 大柏川調節池(北方遊水池)では、水害を防ぐための調節池を貴重な淡水の水辺としても活用しようという試みが、行政と市民の共同作戦で始められました。
 このように、市内の水辺を舞台にしてさまざまな試みがなされていますが、最後に、「人間のためだけの水辺」に一工夫加えることで、そこが自然豊かな水辺となり得る可能性を示唆してくれた例を紹介します。
 それは、ある学校のプールで試みられたことで、水泳指導が終わった9月に水生植物を植えてみたところ、翌年、多数のギンヤンマの幼虫(やご)の生息が確認されました。「人間のための」都市の水辺が、水生生物の生息場所としても機能したのです。

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街かど自然探訪


干拓地と埋立地(sz364.gif、約3KB)

塩焼・「塩」のつく地名が表すこと


 かつて行徳一帯で製塩が盛んだったことは、よく知られています。「塩焼」や「塩浜」という地名も、それに因んでつけられました。歴史を映した名前というわけです。しかし、これらの地名は自然環境の面でも大切なことを教えてくれます。
 行徳地区の南側は、じつは、塩田を次々に作り替えた結果できた干拓地です。ですから、行徳地区は、そもそもの陸地、干拓地、埋立地の3つに大別されるわけです。そして塩焼は、干拓地の端、かつての自然の海岸線付近に位置しています。

 


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行徳野鳥観察舎だより



クロツラヘラサギ

カット(sz365.gif、約1KB)  1月8日夕方。席を立って戻ってくると、図書室で運営会議をやっていたはずの面々が一人もいない。みな観察台で望遠鏡にとりついている。「何がいるの」「クロツラヘラサギ! 成鳥だよ。ほらすぐそこ」
 純白の体、ごつく黒い足、そして何よりも`おしゃもじ´のような奇妙な嘴。この前出現してからもう8年くらいになるだろうか。ともかく変わった魅力を持つ鳥で、19年前、観察舎がオープンした当時に一年近くも滞在し人気の的になっていた種類。中国や朝鮮半島でしか繁殖していない世界的な珍鳥だ。
 おしゃもじを半開きにして水をかきまわす採餌法はいかにも非能率的だが、魚捕りは案外うまい。しばらくいてくれるとよいが。

(文と絵:行徳野鳥観察舎 蓮尾純子 )

 

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いちかわの野生生物




マスクラット (Ondatra zibenthicus)

カット(sz366.gif、約3KB)  マスクラットは大型のネズミで、北アメリカ原産の帰化動物です。良質の毛皮が得られるため昭和初期には養殖されましたが、逃げ出したものが野生化したようです。
 もともと河川や沼沢地などの水辺を好み、江戸川流域の千葉、東京、埼玉の限られた場所で生息が確認されていて、市内ではハス田が一面に広がっていた行徳に、数多く生息していました。
 マスクラットは、夜行性で、大部分を水中で過ごしており、泳ぎがうまく尾は縦に平たくて舵の役目をするといわれています。巣穴はハス田の畦などを掘ってつくり、出入口は水面下にあって水中から出入りします。ハス(蓮根)や多くの水生植物の葉、茎、根を食べるため、蓮根栽培が盛んだった行徳では、害獣でした。
 マスクラットの生息に適したハス田もほとんど埋められ、市内では行徳鳥獣保護区や坂川河口周辺でわずかに目撃されるばかりで、その詳しい生態は謎のままです。

 

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わたしの観察ノート No.18



  つぎつぎに飛来する冬鳥たちの情報、そして、春のきざしを伝えてくれる知らせも届くようになりました。

◆大町自然観察園より
以上 須藤 治(自然博物館) 
  
籔 忠さん(本北方在住) 
※多くのトンボは幼虫(やご)の姿で水中で越冬しますが、このトンボは成虫のまま、林の中などで冬を越します。
※以前は2月が普通だった産卵時期が自然観察園では、平成4年から、4年連続して1月となりました。
 
以上 阿部則雄さん(船橋市在住) 

◆大野町4丁目より
※『市川市鳥類目録1986年〜1991年』では、イカルチドリの市内での記録はありません。
 
以上 安藤ゆきのさん(新田在住) 

◆北方遊水池より

◆国府台〜北国分一帯より
※『市川市鳥類目録1986年〜1991年』では、アオゲラの市内での記録は、ありません。

◆江戸川より