◆  市川自然博物館だより  ◆

8・9月号

「都市と生物」 第3回

スズメバチ

市立市川自然博物館  1995年8月1日発行

特集記事 街かど自然探訪 行徳野鳥観察舎だより ちょっと、いい所 観察ノート

 



特集記事



「都市と生物」第3回 スズメバチ

 都市生活者にとって、「野生生物から危害を加えられる」というのは思ってもみないことです。よく知られたマムシにしても、稲作に従事しなくなった都市生活者には、現実には無縁の生き物です。
 そんな中、都市においても健在で、むしろ増えつつあるといわれているのがスズメバチです。刺されれば痛いし、場合によっては人命を危うくする「危険な生物」スズメバチの、都市への進出の背景を探ります。

増加している? スズメバチ−−−−−−

 市内でのスズメバチの生息状況を知るために、消防署が巣の駆除に出動した回数を調べてみました。平成元年度〜5年度の5年間で出動は延べ 422回(年平均85回)、もっとも多かったのは平成3年度で、 146回にも及びました。
 その平成3年度について出動地域をみてみると、多かったのは大野町・曽谷といった市の北部、農地や雑木林が多く残る一帯で全体の半分を占めていましたが、八幡・中山といった中部の住宅地にも多く、また「緑が少ない」といわれる行徳地区(塩焼・塩浜)でも駆除の事例がありました。
 最近、「都市でスズメバチが増えている」といわれています。市川市の場合、消防署が本格的に駆除しはじめたのが平成元年度からということでデータが少なく、「増えている」のかどうかはわかりません。しかし、大町や大野町から行徳地区に至るまでの市全域にスズメバチが生息しているのは確かなようです。

スズメバチ巣の駆除地点、駆除件数(sz391.gif、約5KB)


都市型スズメバチの生活−−−−−−−−

 市内でよく見られるスズメバチは2種類、「都市型」スズメバチといわれるキイロスズメバチとコガタスズメバチです。この2種類には、都市でも暮らしていけるいくつかの特徴があります。

《何でも食べる》
 スズメバチの餌には、成虫自身の餌(樹液や花蜜)と、巣に持ち帰り幼虫に与える餌(昆虫やクモ)があります。このうち幼虫に与える餌は種類によって違いがあり、それが「都市型」か否かを左右しています。
 たとえば「非都市型」のヒメスズメバチは、アシナガバチの巣を襲って得る蛹と幼虫だけを餌にします。モンスズメバチは、セミばかりを好みます。これら特定の昆虫にこだわる種類は、都市生活には不向きです。餌の絶対量を確保することが、むずかしいからです。ヒメスズメバチの場合、アシナガバチの巣 150〜 200個分の餌が必要といわれています。それだけの量を都市で手に入れるのは大変です。
 その点「都市型」の2種類は、さまざまな昆虫やクモ類、キイロスズメバチの場合だと死んだヘビやカエルにまで手を出すことが知られています。選択肢が多ければ、都市においても、どうにか必要量をまかなうことができるわけです。

身近なスズメバチ5種類の都市への適応度は?
  キイロスズメバチ コガタスズメバチ オオスズメバチ ヒメスズメバチ モンスズメバチ
成虫の餌 多様である:
樹液、花蜜、果実、ジュースなど
多様である:
樹液、花蜜、果実、ジュースなど
多様である:
樹液、花蜜、果実、ジュースなど
多様である:
樹液、花蜜、果実、ジュースなど
多様である:
樹液、花蜜、果実、ジュースなど
幼虫の餌 多様である:
ハエ、アブ、ハチ、セミほか
多様である:
ハエ、アブ、ハチ、クモほか
特定される:
甲虫やハチなど(注1)
特定される:
アシナガバチの幼虫と蛹のみ
特定される:
セミなど
巣の場所 多様である:
屋根裏、軒下、木の枝ほか
多様である:
低木の枝、草、軒下など
特定される:
土中のみ
多様である:
土中、屋根裏、樹洞など
多様である:
屋根裏、土中、樹洞など
適応度 ◎(注2) × × ×

 注1:オオスズメバチは、ミツバチや他のスズメバチの巣を集団で襲い、幼虫や蛹を餌として略奪する。

 注2:巣作りの場所や幼虫の餌とするものの種類などは、キイロスズメバチがもっとも柔軟性に富んでいる。


《どこにでも住む》
 スズメバチの生活は、その大半が巣を舞台に営まれます。したがって、都市の中に巣を作れるかどうかも重要です。
 「非都市型」のオオスズメバチは、モグラやネズミの穴、樹木の根際の穴などを利用して地中に巣を作ります。都市では、巣作りの適地は多くありません。
 ところが「都市型」の2種類は地上に巣を作り(キイロスズメバチは地中にも作る)、コガタスズメバチでは生け垣や庭木、キイロスズメバチでは軒下や屋根裏、さらに両種ともコンクリートの建造物に巣を作る柔軟性も備えています。
 「都市型」スズメバチが市川のように都市化が進んだ地域でも暮らしていけるのは、公園や緑地にわずかにいる昆虫をかき集めて必要な餌をまかなうたくましさと、都市の都市たる所以である人工建造物にも厭わず巣を作る柔軟さによっているようです。
 なお、キイロスズメバチではもうひとつ、「巣の引っ越し」があります。これは、1匹の女王と少ない働き蜂で守る初期の巣は安全で暖かい空間(壁の隙間や屋根裏、時に鳥の巣箱など)に作り、その後、軒下や木の枝に移動して巣を拡大するというものです。巣の防衛がおぼつかない初期に人目につかない点、都市向きといえます。

いくつかの事例から−−−−−−−−−−

 市内で観察されたいくつかの事例をもとに、スズメバチの生態を見てみます。

《駆除したはずなのに……》

 八幡の民家において、平成6年7月18日と27日に、立て続けに巣の駆除が行われました。場所は2件とも通気口の中でサイズはともに直径25cmでした。この事例では、最初の駆除の時に蜂を残して巣だけとったため、残された多数の働き蜂がわずか9日で巣を再建したものと思われます。

《キイロスズメバチの引っ越し》

 今年8月、新田の民家で「引っ越し」と思われる事例がありました。それは、最初気づいた時は玄関脇に積まれた材木と屋根裏の2か所にキイロスズメバチが群れていて、その後、玄関脇からはいなくなったというものです。明らかに屋根裏への引っ越しだったわけですが、引っ越しが始まってから家人が存在に気づいた点で、引っ越し作戦は、まんまと成功したようです。

《バラ園を訪れる女王蜂》

 越冬を終えた女王蜂は、巣作りの前に樹液や花蜜を食べて体力の回復をはかります。大町公園のバラ園では花盛りの5月、蜜を求めてキイロスズメバチやオオスズメバチの女王蜂が飛来するのが見られます。人間のための花園を、彼女らも、ちゃっかり利用しているのです。

スズメバチとのつきあい−−−−−−−−

 スズメバチで大事なことは、常に専守防衛に徹しているということです。スズメバチが人を刺すのは、人が怖がって手で払った場合(スズメバチの方では、攻撃を受けたと考える)や、巣に著しく近づいた場合(巣の防衛ラインが破られたことになる)がほとんどです。しかも、たいていの場合刺す前には威嚇の行動をとっています。
 都市のスズメバチに詳しい小野正人さん(玉川大学・講師)は、「スズメバチは蚊と違い、生きるために、刺すことが絶対必要というわけではありません。ですから、もう少し広くスズメバチの習性が知られるようになれば、刺されることも減るのではないかと思います」とおっしゃっています。
 実際、大町公園などでも、スズメバチが目の前にいるのに、あるいは明らかに威嚇行動をとっているのに、それにまったく気づかれない方がいらっしゃいます。はたで見ているこちらが、ドキドキするほどです。
 目の前にいるスズメバチを、スズメバチとして認識できる程度の目、自然に対する注意力が少なくとも必要なのではないでしょうか? そしてそれは、もしかしたら、こどもの時代にたっぷり自然体験を積むことで培われるものかもしれません。


【スズメバチに刺されない為に】

  1. スズメバチはあなたの身近に普通にいます!!
     まずこのことを肝に銘じてください。

  2. 重い羽音に気がついて!!
     警戒態勢の時、あなたの頭の回りをまとわりつくように飛びます。その羽音に気がついて!

  3. 羽音の主を確かめて!!
     そっと顔を回して、羽音の主を見てください。

  4. 動かないで!!
     それがスズメバチだったら、じっとしているのが一番。手で追い払ったりするのは禁物です。

  5. ゆっくり後退して!!
     いつまでも去らなかったり、近くに巣があったら、ゆっくり退いてください。静かに!

  6. 巣の駆除は素人では無理!!
     夏〜秋の巣は防衛態勢が確立されています。素人が駆除するのは不可能。消防署などへ相談を。
 
 

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街かど自然探訪


カット(sz392.gif、約3KB)
下新宿・江戸川の自然堤防

 宅地化が進んだ行徳地区、そのなかで下新宿をはじめ香取や新井など旧江戸川に沿った一帯には、古い集落や旧街道が見られます。なぜ、この場所に位置しているのかというと、そこが行徳地区の中で他より若干、高くなっているからです。
 この高まりは「自然堤防」と呼ばれ、江戸川が古い時代に何度も氾濫を繰り返す中で、土砂が堆積してできました。
 昔の街づくりでは、土地のわずかな高低の差が重要な意味を持ちました。

 


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行徳野鳥観察舎だより



ひしめく

カット(sz393.gif、約2KB) 家庭排水を水源とし、棚田状の浅い池を通して浄化をはかっている「みなと新池」。水生生物の復活をめざし、昨年あちこちから植物や魚を入れた。さすが水田雑草、雑排水の肥料分を十二分に活かして、ミズアオイやオモダカはまるでカンナのような特大サイズ。ガマ、マコモ、トチカガミ。なつかしい湿地の植物がもりもりと育っている。
 昨年8月末に館山から運んだヒシはすぐ姿を消したが、春に水底から芽吹き、水面をめざしてのびはじめた。とげのあるひし型の種子があちこちに散ったらしく、今では結構のさばっている。館山のため池のように水面をおおいつくして、ああ、これが「ひしめく」状態だ、ということになったらどうしよう。

(文と絵:行徳野鳥観察舎 蓮尾純子 )

 

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ちょっと、いい所




セミの宝庫! 堀之内貝塚公園

カット(sz394.gif、約17KB)  セミ採りは、ちょうど夏休みの時期にセミが多いこともあって、昆虫採集の入門編としてこどもたちに最適です。チョウやトンボ、コウチュウ類に比べると捕獲も楽だし、特殊な道具も必要なく、また、取ったセミは標本にするのにも手がかかりません。
 でも、取れるのがアブラゼミばかりでは興ざめです。緑色の模様と透明な翅が美しいミンミンゼミや素敵な声のヒグラシも手に入れたいものです。堀之内貝塚公園は、狭いながらも市内産の主要5種が普通に見られ、採集もしやすいため、絶好のセミ採りポイントです。

【堀之内貝塚公園への交通】
 JR市川駅より「国分経由松戸駅」行き、「北国分駅」行きなどで「博物館入口」下車、または、北総線・北国分駅下車、ともに徒歩10分。

 

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わたしの観察ノート No.24



◆大町自然観察園より−−−−−−−−
以上 金子謙一(自然博物館) 
清野元之(自然博物館) 
以上 須藤 治(自然博物館) 

◆北方遊水池一帯より−−−−−−−−
以上 今泉新二さん(北方在住) 
◆冨貴島小付近より−−−−−−−−−
◆鬼高より−−−−−−−−−−−−−
◆高谷より−−−−−−−−−−−−−
以上 石井信義さん(菅野在住) 

◆新田より−−−−−−−−−−−−−
黒川 藍さん(新田在住) 
※黒川さんからは、1994年9月18日に自宅でリュウキュウムラサキを採ったとの情報もいただきました。

◆じゅんさい池より−−−−−−−−−
◆真間山より−−−−−−−−−−−−
◆里見公園一帯より−−−−−−−−−
以上 根本貴久さん(菅野在住) 
以上 秋元久枝さん(国府台在住) 

◎今年の6〜7月は、梅雨はしっかり雨が降り、明けるとしっかり晴天が続きとても「正常」でした。


 

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