◆  市川自然博物館だより  ◆

4・5月号

配慮したい市内の野生生物 (1)

植 物

市立市川自然博物館 1997年4月1日発行

 特集記事  街かど自然探訪  行徳野鳥観察舎だより  むかしの市川 観察ノート

 



特集記事



配慮したい市内の野生生物  (1)   植物

 都市化の進行により、市内の自然環境は明らかに衰退してきています。そんな中かろうじて残った数少ない自然環境に、野生生物はどうにか生存の場を見いだしています。本年度の特集では、今後さまざまな面で配慮が望まれる野生生物について現状と問題点を報告します。第1回は植物です。植物は移動能力に乏しく環境の変化が生死に直結する生物です。

林の中の植物

 林の中は特殊な空間です。温度、湿度、光、土壌等、外部とはまったく異なる環境がそこに保たれています。したがって林の中には、そこでしか生きられない植物が見られます。
 イチリンソウは、明るい雑木林に生育する植物です。林の向き(斜面林の斜面の向き)や林床の状態などに対する好き嫌いが激しく、ひと口に林といっても生育できる林は限られています。市内では2〜3ヵ所の雑木林でしか見ることができません。
 イチヤクソウは、やや暗い湿った林を好みます。特定の菌類と共生する菌根植物なので、その林が自身の生育に適した環境であるだけでなく、共生菌も合わせて生育できる環境であることが必要です。生育地は2〜3ヵ所と、やはり多くありません。
 イチリンソウやイチヤクソウは、林の中でしか生育できないのはもちろん、林の管理が放棄され林内の環境が変化してしまうだけでも、あっというまに姿を消してしまいます。林の中で生育する植物には、さま ざまな林で幅広く見られる種類もあれば、イチリンソウやイチヤクソウのように限ら れた条件の林だけで生きていける種類もあるのです。もちろん、後者の種類に対して は特別な配慮が必要です。他にも、ササクサ、チゴユリ、コバギボウシ、キツネノカミソリ、フユノハナワラビなどには配慮が望まれます。
 ところで林の中の植物は、好適な環境が失われることの他にも、常に大きな脅威にさらされています。乱獲です。市内の自生株の数が指折り数えられるエビネや、株はあっても毎年、分け取られる(その場で株分けされてしまう)のでいつになっても花が咲かないシュンランなど、乱獲は特にラン科の植物に甚大な影響を及ぼしています。一度は絶滅したクマガイソウが最近になって復活したという明るいニュースもありますが、ラン科やラン科以外でもヤマユリのような美しい植物は、生育地の環境が損なわれる以上のスピードで市内から姿を消しつつあります。個人の敷地に囲い込まれた植物は、もはや市民の共有財産ではありません。もちろん、野生生物として扱うこともできません。野生植物を採集することは厳に慎みたいものです。

林の縁や草原の植物

 林の縁や草原に生育する植物は、林の中の植物以上に都市化の影響を受けています今後、配慮を要する種類としてはワレモコウ、オミナエシ、ウツボグサ、ホタルブクロ、アカネスミレ、イカリソウ、ウマノアシガタ、ジロボウエンゴサク、クララ、コハナヤスリなどがありますが、すでにカワラナデシコ、オトギリソウ、フデリンドウノアザミ、アキノキリンソウ、ノコンギクなどの種類が市内から姿を消してしまっています。
 もともと市川は低地が多く、草原的な環境には恵まれない土地柄です。そこに都市化の波が押し寄せたわけですから、林の縁や草原を好む植物に適した環境が残されるはずもなく、現在残っている生育地は、公有地や民有地の一部、道ぞいのわずかな範囲などいずれも小規模なものばかりです。草刈りなど適正な管理がなされている場合はいいのですが、中にはアズマネザサやセイタカアワダチソウに埋もれかけている場所もあり、今後の扱いに課題が残ります。
 植物は、管理せず放っておくだけでは守ることができません。大型の植物の成長とともに、小さな植物が姿を消してしまうからです。生育地の適正な管理は、生育地の保存と並んで重要な問題です。
 ところで、市北部にある堀之内貝塚公園には、イヌノフグリ(オオイヌノフグリではない!)やホタルカズラ、カントウタンポポの群落が今でも残っています。カントウタンポポはともかく、イヌノフグリは市内ではここにしかなく、ホタルカズラもまとまった群落はここだけです。史跡であることがプラスに働いたのかどうかはわかりませんが、今では考古学だけでなく植物の面でも貴重な場所になっています。

河川敷の原野の植物

 国府台3丁目の坂川旧河口一帯(江戸川河川敷)は、かつて各地の河川でふつうに見られた「原野」の環境を今なお残しているところです。それは、国府台の崖(里見公園の崖)が天然の堤防機能を果たしているために治水上の安全度が高く、大規模な河川改修がなされなかったことによってい ると言われています。
 ここに、日本各地で生育地が激減している絶滅危惧種・フジバカマがあります。フジバカマは河川敷に多い植物なので河川改修の影響で減少したと言われていますが、この地のものは昔からの群落がそのまま現在にまで至っています。市内唯一の生育地であるのはもちろん、江戸川全体(関宿〜東京湾)でみても、おそらくここにしかないと思われます。その意味では、江戸川産フジバカマの遺伝子を純粋に保存していると言えるかもしれません。
 またここには、ノウルシ、ノカラマツ、タカアザミ、サクラタデなどの植物も生育しています。これらもフジバカマ同様、市内はもとより江戸川全体で見てもここにしかないと思われる植物です。
 国府台3丁目の坂川旧河口一帯は、河川敷を好む植物にとっては江戸川流域に残されたおそらく最後の生育地です。しかし、エキサイゼリのように最近になって姿を消した種類もあります。今後、格段の配慮が望まれます。
 なお、この地のフジバカマは保存のために一部が自然観察園に移植されています。しかし自然観察園では、後に園芸品種のフジバカマも合わせて植えられてしまい、残念なことに保存の意味合い(特に遺伝子の保存)が薄くなってしまいました。

池や小川の植物(水草)

 いわゆる水草の類は、水の汚れや護岸工事の影響などにより潰滅的な打撃を受けました。川の中にびっしりと生える「藻」のような水草や、池・沼の水面に葉を浮かべる水草は、市内の至る所にあったのですが今では完全に姿を消してしまいました。
 水草に近い存在として唯一残っているのはカワモヅクです。カワモヅクは淡水に生育する藻類で自然観察園の水路にわずかに見られます。正確な種類(何カワモヅクかはわかっていませんが、かつては早春の水路にカワモヅクがユラユラとなびく様子が普通に見られたといいます。現在では、中央水路のほんの2〜3mの範囲だけで見られます。水質の悪化が減った原因と思われますが、どうすれば復活できるのか、打つ手がないのが現状です。
 ところで、自然観察園やじゅん菜池公園では何種類かの水草を見ることができます人が外部から持ち込んで植えたものです。水草の移植・栽培は、水辺の生態系を豊かにするという効果がある反面、種類が同じなら他の地域のものでも市川の自然と呼べるのか? 人が育てても自然なのか? という疑問も生じさせます。いずれにしても、無秩序な移植・栽培は避けたいものです。

水田、休耕田、湿地の植物

 水田雑草と呼ばれる植物があります。水田という環境に特徴的に見られる植物で、稲を育てる立場からすると「雑草」なのでこう呼ばれます。何種類もの植物があり、中でもミズニラ、ミズワラビ、コオニタビラコ、キクモ、アギナシ、オモダカなどの植物には配慮が望まれますが、水田とその命運を共にしているのが現状です。
 稲作をやめ水田を湿った状態のまま放置した休耕田や、休耕田が姿を変えた(遷移した)湿地にも、そこに特徴的な植物が見られます。セリ、ヨメナ、アカバナ、何種類ものカヤツリグサ類やイグサ類です。これらも、休耕田に盛土が施されるとともに 姿を消しています。
 なお、水田雑草や休耕田・湿地の植物のうち、公園化される前のじゅん菜池にあったミクリとニオイタデ、市内の水田にあったミズニラは、自然観察園に保護移植されています。

海岸の植物

 江戸川放水路は、海辺の環境をもつ場所です。小規模ながら干潟やヨシ原、砂浜などがあり、そこには海岸だけで見られる植物が生育しています。ハマヒルガオ、ハマエンドウ、ハチジョウナ、トウオオバコ、ウラギク、ホソバノハマアカザ、アイアシ、シオクグなどです。また、海中に生える種子植物であるコアマモもわずかに生育しています。このうち、コアマモとシオクグは環境の変化に弱く人為的なコントロールもむずかしいため、今後、配慮が必要です。

 


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街かど自然探訪



中国分・じゅん菜池公園でカモを間近に!


 じゅん菜池公園の池には、毎冬、オナガガモやハシビロガモという美しい(オスだけ)カモが渡ってきます。餌をやって下さる方がいるので、人を恐れることもなく、足元にまで近づいてきます。
 剥製ではない生きている野鳥を肉眼で間近に観察できる機会は滅多にありません。野生生物に餌を与えることの是非も考える必要はありますが、たまには双眼鏡を置いて、自分の目でじっくりと野鳥を観察してみてはいかがでしょう?

 


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行徳野鳥観察舎だより



白鷺のくちばしに注目!

 4月もなかばをすぎると、観察舎前に集まっていたセグロカモメが姿を消します。水辺でめだつのはサギのなかま。いわゆる白鷺(ダイサギ、チュウサギ、コサギ)のほかに、アオサギやゴイサギなど、白くないサギもいます。

 4月から6月ごろにかけて、繁殖の時期を迎えたダイサギやチュウサギは、嘴(くちばし)の色が変わります。ふだんは黄色いのがまっ黒に。目と嘴の間に露出している皮膚(目先:めさき)の色もダイサギはトルコブルー、チュウサギは黄色のまま、コサギは赤紫になります。嘴の色がわりはふしぎでなりませんでしたが、ちょうど人間がころんで青や黒のアザを作るのと同じ理屈のようです(注)。
 ちなみに、結婚相手が見つからないと嘴の色は変わりません。もっとも、片思いでもよいようです。

#注:内出血とまではいかないものの、血管の拡張などですみやかに色が変わるそうです。

(文と絵:行徳野鳥観察舎 蓮尾純子 )

 

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むかしの市川



カラタチの花

 昭和27年、私は中山小学校に勤務していました。その頃、学校の南側の土手には、高さ3m前後のカラタチの木が5、6本垣根代わりに植えられていました。

 カラタチの木の横の教室に入った5月、「白い花がいっぱい咲いているよ。」と言われ、外を見ると、カラタチがいっぱいの花をつけていました。さっそく子供たちを連れだしてカラタチのところに行き、花の形を見たり、匂いをかいだり、木の肌、刺にふれながら楽しい時を過ごしました。
 一ヵ月程過ぎ、子供が「カラタチのところにチョウがきているよ」と言ってきたので見ると、アゲハチョウが卵を産んでいました。そこで卵を3個ほど取り、教室で育てることにしました。卵は順調に育ち、その中の一頭が午前9時頃から羽化を始めたので、全員でその変化の様子をじっくりと見ることができました。

(博物館指導員 鎗田安之 記)

 

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観察ノート



◆大町自然観察園より....
◆市川北高校付近....
◆柏井雑木林より....
以上 金子謙一(自然博物館)
以上 籔 忠さん(本北方在住)

◆国府台より....
◆江戸川より....
◆堀之内貝塚公園より....
以上 根本貴久さん(菅野在住)

◎ニホンアカガエルの産卵は例年並みでしたが、ウメやコブシの開花はかなり早かった冬〜早春でした。昨年ほどではありませんが渇水気味でした。

 

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