◆  市川自然博物館だより  ◆

12・1月号

配慮したい市内の野生生物 (5)

無脊椎動物

市立市川自然博物館 1997年12月1日発行

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特集記事



配慮したい市内の野生生物 (4)   無脊椎動物

  無脊椎動物は、種類数や個体数において動物界の大半を占めている生物群で、生態系の主要な構成者でもあります。しかし、研究者が少ないことや一般の関心が必ずしも高くないことから、脊椎動物にくらべると取り上げられる機会は多くなく、博物館においても情報収集は進んでいません。今回は、無脊椎動物の一部について紹介します。

環境とのかかわりが深い


  一般に「無脊椎動物」と称される動物の中には、さまざまな分類群のものが含まれています。貝類が属する軟体動物、昆虫やエビ・カニ類が属する節足動物、ウニやヒトデが属する棘皮動物、クラゲやイソギンチャクが属する刺胞動物など、全部で30群前後にも及びます。これに対して「脊椎動物」と称されるのは実はただひとつの分類群で、その中に哺乳類や鳥類などの動物が含まれています。脊椎動物と無脊椎動物は対で語られる事が多くありますが、実際は動物界の大半は無脊椎動物であるわけです。

  無脊椎動物は総じて小型の動物です。軟体動物のイカ・タコ類、節足動物のエビ・カニ類は大きい方で、大部分はそれ以下、中には顕微鏡でなければ見えないようなものも含まれています。そのかわり個体数は多く、また、一度の繁殖でかなりの数が誕生します。小さくて数が多い無脊椎動物は、食う食われるの関係の中では、食われる立場、つまり餌としての役割を担うことが多いようです。広く生態系という観点で見た場合には、その土台を担う存在です。

  また、無脊椎動物は総じて移動能力には乏しい動物です。昆虫類のトンボ類やチョウ類などは広範囲を移動することができる例外的な存在で、多くは限られた範囲の中で一生を送ります。いわゆる「指標生物」に無脊椎動物が多く含まれているのも、あまり移動しないために環境の状態を直接的に反映すると考えられるからです。

  いまの当博物館の力量では、「配慮したい市内の無脊椎動物」について全貌を語ることは不可能です。ここでは軟体動物と節足動物の一部について紹介しますが、だからといって他の無脊椎動物が安泰というわけではありません。むしろ「人知れず」姿を消していることの方が多いでしょう。

  無脊椎動物に目を向けることは、個々の種の保存という観点と同時に、地域の環境や生態系の質の変化を知るという意味においても重要です。動物は、いわゆる「鳥獣魚類」ばかりではないのです。

配慮を要する軟体動物


  市内に生息する軟体動物は、おもに貝類です。二枚貝と巻き貝が生息していて、巻き貝にはカタツムリやウミウシなども含まれています。また、貝類以外では、かつて江戸川放水路河口でイカの仲間(ジンドウイカ)が採集された記録があります。

マシジミ
参考写真:マシジミ(約46KB)
  二枚貝のうちでもっとも配慮を要するのは、マシジミです。これは淡水性の二枚貝で、市内では自然観察園の水系だけで生息が確認されています。きれいな湧き水が流れる砂底の小川などを好み、かつては市内各所で普通に見られましたが、水質の悪化や川底のコンクリート化といった生息環境の悪化で減少してしまいました。

  淡水性の二枚貝には、他にイシガイやドブガイ、タガイ、カラスガイなどもあります。かつて市内に生息していたのが厳密にどの種類であったのか、今となってはわかりませんが、少なくとも何種類かは生息していたようです。マシジミが減少したのと同様の理由で、絶滅してしまいました。

  このほか市内の淡水域には、巻き貝も生息しています。もっとも配慮が望まれるのはカワニナで、湧き水の近くに生息し、市内では大規模な生息地として自然観察園がありますが、他には小規模なものがあるだけです。ホタルの幼虫の餌として知られる貝ですが、それ以前に、湧き水の環境と深く結びついた生物として配慮が必要です。

  一般に移動能力に乏しい貝類は、環境との結びつきが強固です。望ましい生息環境があればごく普通に見られるかわりに、生息環境がなくなれば、あっという間に姿を消してしまいます。たとえばハマグリは、かつて東京湾は有名な産地であったにもかかわらず、もう絶滅したのでは? と言われるほどになりました(売られているものの多くは、近縁の別種)。

オオノガイ
参考写真:オオノガイ(約28KB)
  そういった観点で見ると、江戸川放水路に生息するオオノガイ、ソトオリガイ、サビシラトリガイ、ハナグモリガイなど泥干潟を好む二枚貝も、配慮が望まれる種類と言えるかもしれません。

  いまなお江戸川放水路では数多く見られるものの、東京湾奥においては干潟そのものの数が少なく、中でも泥干潟は、砂干潟が人工海浜といった形で再生が試みられる一方で、ほとんど顧みられない環境だからです。その意味でこれらの二枚貝は、泥干潟と合わせての配慮が望まれます。

  江戸川放水路には巻き貝も生息しています。しかし、その種類は多くありません。いまでも生息しているのはカワグチツボ、エドガワミズゴマツボ、タマキビガイ、アラムシロガイくらいで、他のウミニナ、カワアイガイ、ヘナタリガイ、カニモリガイなどはヤドカリが宿として背負っている殻を見るばかりです。これは、かつて江戸川放水路やその周辺の干潟に生息していたものの、生息環境の減少や悪化によって姿を消し、その殻だけが今もヤドカリに繰り返し利用されているものです。

  これらの巻き貝は、今後再発見される可能性があります。その時には、環境の整備も含めた十分な配慮が必要となるでしょう。また、現存しているカワグチツボ、エドガワミヅゴマツボなどについても、泥干潟や泥質の浅瀬がなくなれば姿を消してしまうという点では配慮する必要があります。

配慮を要する節足動物

  節足動物としては、6・7月号(第50号)で扱ったトンボを除く一部の昆虫と、エビ・カニなど甲殻類の一部について取り上げます。

  配慮が望まれる昆虫としてよく知られているのは、一般に「ゼフィルス」と称されるチョウの仲間です。市内ではミドリシジミ、オオミドリシジミ、アカシジミ、ミズイロオナガシジミなどが知られていて、いずれも特定の種類の樹木と深く関わった暮らしをしています。産卵場所として幹や枝を利用し、幼虫の餌として葉を利用し、成虫の活動場所として梢を利用します。
  なかでもミドリシジミは湿地に生育するハンノキとの関わりが深いため、近年、市内に限らず各地で絶滅が心配されています。湿地が埋め立てられハンノキの林が減っているからです。ハンノキが多い大町自然観察園にはミドリシジミも多数生息していますが、市内に他の生息場所はありません。

アカシジミ
参考写真:アカシジミ(約23KB)
  また、クヌギやコナラといった樹木との関わりが深く、そのためおもに雑木林に生息しているオオミドリシジミ、アカシジミ、ミズイロオナガシジミなども、雑木林が減り、ひとつひとつの林の規模が小さくなっている現状では今後が心配です。また、このことは、「ゼフィルス」に限らず、林に関わって暮らす昆虫全般について共通に言えることかもしれません。

  いわゆる水生昆虫は、淡水二枚貝が減少したのと同じ理由で、市内では激減しました。いくつかの小型の種類を除くと見られることも稀ですが、自然観察園ではコオイムシ(オオコオイムシ?)の生息が確認されていますし、プールなどにミズカマキリが飛来することも知られています。水生昆虫の多くには飛翔力があるので、淡水性二枚貝や魚類などにくらべると、水辺の復元にともなう復活の可能性が秘められているといえるでしょう。

サワガニ
参考写真:サワガニ(約40KB)
  配慮が望まれる甲殻類としては、サワガニを挙げることができます。湧水のまわりなどに生息する淡水性のカニで、市内では自然観察園に多数生息するほか、他に若干の生息地があります。サワガニは、例えばモクズガニのように繁殖のために海に下る必要がありません。一生を湧水の周辺で送ることができるため、湧水から海までの経路の連絡が途絶えても世代を繰り返すことができます。市内のサワガニは、市内の湧水のうち比較的良好な環境が残る場所に取り残されたような形で残存しています。

  淡水性のエビは、江戸川のテナガエビを除くと、一度、市内からは姿を消してしまったと考えるべきでしょう。近年になって市内のいくつかの場所からテナガエビやスジエビなどについての情報が寄せられるようになりましたが、その場所の状況などを考えると、ヘラブナやブラックバス、あるいはタナゴ類などと同様、釣り人などによって放されたと思われます。

  しかし、由来はどうあれ、淡水性のエビが生息できるというのは望ましいことです。鳥や魚ばかりではなく、さまざまな無脊椎動物が住める水辺の条件を考えた場合、淡水性のエビが確実に繁殖し世代を繰り返せるというのは、ひとつの目安になります。ヌカエビ、スジエビ、テナガエビの3種類は、市内の淡水の水辺に望まれるエビとして注意を払いたいものです。

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街かど自然探訪



東大和田・クスノキの楽しみ

カット(sz531.gif、約4KB)
  東大和田1丁目には、クスノキの並木があります。街路樹なので定期的に枝が払われ、樹形を楽しむというわけにはいきませんが、それでも小さな楽しみを見つけることはできます。
  クスノキは、新緑が美しい木です。春のやや遅い時期、いっせいに伸び出る新葉の瑞々しさには息をのみます。また、クスノキはアオスジアゲハの幼虫が暮らす木です。冬なら蛹が、夏なら産卵に訪れる成虫も見られるかもしれません。

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行徳野鳥観察舎だより



チュウヒ

カット(sz532.gif、約3KB)   水鳥の群れにとつぜん走る緊張。サギやカモメがいっせいに空を見上げ、カモの群れが飛びたちます。アシ原の王様、チュウヒの登場。翼をななめ上に保った独特のスタイルでゆうゆうと帆翔する姿。カラスよりも少し大きいだけで、気性もわりあいおだやか。サギより大きな獲物はまずねらわないのですが、傷ついて飛べないカモなどは餌食になるため、鳥たちは大パニック。観察している人間にはたいへん面白いみものです。
  保護区で見られるチュウヒは何羽いるのでしょうか。広さからは1羽が暮らすのもむずかしいのに、かけもちで獲物を探すらしく、毎年6、7羽かそれ以上が出現しているようです。今年こそ、とぬり絵の要領で個体の特徴を書き込むつもりなのですが。

(文:行徳野鳥観察舎 蓮尾純子 )


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むかしの市川



白幡神社の松

カット(sz533.gif、約3KB)   昭和24、25年頃は、昭和学院前の道路は農地が多く、遠くからでも宮久保の台地がよく見えました。その台地の上に遠くからでも目についたのが、木々の上に枝を伸ばし、きれいに並んでいる松の木でした。勤めが台地の上にあった関係で毎朝この松の木々を見るのが楽しみでした。特に空の澄んだ日は、歩を運び、近づけば近づく程葉の一本一本が、浮き出ているような美しさを感じ、心地よく一日が始められました。
  この松の木、台地の上の白幡神社の参道に植えられている松の木でした。数年後道路拡張のために道路近くの木を切ることになった時、ご神木だから・・・・ということで切る人がなかなか決まらなかったとか、そして、切り倒した時に、見ていた人が木の下敷になって命をおとしたという悲しいできごともあったと聞いています。

(博物館指導員 鎗田安之 記)


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わたしの観察ノート No.35



自然観察園より
江戸川より
真間山より
じゅん菜池公園より
小塚山市民の森より
菅野より
江戸川放水路より
塩浜沖より
◎秋雨前線が停滞した9月に対し、10月は好天の日が続きました。

 

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