◆  市川自然博物館だより  ◆

1998年6・7月号

特集「いちかわの蛾」 2

雑木林で生活する蛾-ヤママユガの仲間-

市立市川自然博物館 1998年9月15日発行

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特集記事



いちかわの蛾 2 雑木林で生活する蛾 −ヤママユガの仲間−

  梅雨から真夏にかけての蒸し暑い季節、街燈などの明かりには夜行性の昆虫が飛来します。都市化が進んだ市川では、自然豊かな地域のように多様な昆虫が集まるというわけにはいきませんが、それでも、時々興味深い昆虫と出会うことがあります。大きな翅でひときわ目を引くヤママユガの仲間も、そんな昆虫のひとつです。

カイコに近い仲間

  ヤママユガの仲間は、ヤママユガ科というグループに属します。このグループには大型の蛾が多く、市内で見られる大型の蛾も、その大半がこの科に属しています(国内最大の蛾であるヨナグニサンもヤママユガ科)。また、外見的には多くの種類で翅に目玉模様があることが、特徴として知られています。
 
  世界的に見ると、各地で生息が知られていて、これまでにおよそ 1,300種類が記録されています。ただ、その大部分は熱帯の森林地帯を主としたものなので、日本国内での記録はわずか12種類に過ぎません(市川市内では7種類)。
 
  ヤママユガ科は、分類学的にはカイコ(カイコガ科)に近い仲間です。そして、カイコと同じように生糸がとれる種類があり、各地でさまざまに利用されています。国内でもヤママユガ科のヤママユのマユから取れた生糸は「天蚕」の名で知られ、その緑がかった糸の風合いを生かして、着物などに仕立てられています。
 

市内でよく見られる種類

  市内で記録があるヤママユガ科の蛾は、クスサン、オオミズアオ、ヤママユ、ウスタビガ、ヒメヤママユ、シンジュサン、エゾヨツメの7種類です。このうち、比較的よく見られるのは次の3種類で、市北部の雑木林の周辺の他、学校や公園の植栽木でも、時々発生することがあるようです。
 

1.クスサン

  幼虫が変わっていて、背中一面に長くて白い毛が生えていることから「シラガタロウ(白髪太郎)」と呼ばれています。また、クリの木で発生した時には「クリケムシ(栗毛虫)」とも呼ばれますが、実際には幼虫のエサとなる木はクリだけではなく、クヌギなどのブナ科の樹木やヌルデなどで、時には街路樹のイチョウに発生することもあるようです。このため、市内のヤママユガ科としては最も数が多く見られ、秋9月上旬〜10月下旬に成虫が出現します(図1)。
 
クスサン(sz561.gif、約9KB)

  図1:クスサン(開長10〜13cm)
 
 

2.オオミズアオ

  市内で見られるヤママユガ科の蛾のうちでは最も美しい種類です。他の種類が茶色を基調にした色をしているのに対しオオミズアオの翅色は水色あるいは黄緑色と美しく、細長く伸びた優雅な翅の形と相まって、たいへん印象的です。闇夜を飛翔するオオミズアオが月明かりに照らしだされる神秘的な光景は、一度見たら忘れることができないほどで、そのためこの蛾を「蛾の女王」などと称する人もいるようです。
 
  成虫の発生は、市内では年2回、おおむね4月中旬〜6月中旬と、7月上旬〜9月中旬です。幼虫のエサとなる樹木は、雑木林に生息するクヌギ、コナラ、イヌシデといった種類で、稀な例として植栽されているサクラも食べることがあります(図2)。
 
オオミズアオ(sz562.gif、約7KB)

  図2:オオミズアオ(開長8〜10cm)
 
 

3.ヤママユ

  市内の蛾の中では、最も大きな種類です。茶色の翅を広げて建物の壁などにペタッと止まっている様子は、好き嫌いはともかく、誰の目にもとまる存在感があります。
 
  成虫の発生は、市内では7月下旬〜8月下旬です。クヌギ、コナラ、クリなどのブナ科が多い雑木林で主に見られます(オオミズアオ同様、サクラで発生することが稀にあります)。成虫の翅は茶色をしていますが、個体変異があり、かなり黄色っぽいものや、逆に濃い褐色をしたものなど様々です(図3)。
 
ヤママユ(sz563.gif、約7KB)

  図3:ヤママユ(開長11〜15cm)
 

樹木の葉を食べる

  ヤママユガ科の蛾は、すべての種類で幼虫が樹木の葉を食べることが知られています。主な食樹としては、ブナ科、クスノキ科、ニガキ科、ミカン科、カバノキ科、ニレ科、カエデ科、ウルシ科、ミズキ科、クルミ科、エゴノキ科、バラ科などに属する樹木が挙げられ、多くの場合、何種類もの樹木をエサとする「多食性」で、「単食性」の種類は少ないと言われています。
 
  市内で記録されている7種類は、いずれもクヌギ、コナラ、クリといったブナ科の樹木を好み、そのため、それらが多く生育する雑木林で多く見られます。針葉樹を食べる種類は知られておらず、実際、スギの植林地などではヤママユガ科の蛾を見ることはありません。
 

雑木林が生活の場

  ヤママユガ科の蛾は、成虫になるとエサを取ることがなく、口も退化します。ということは一生の間でエサを取るのは幼虫の時期だけということになりますから、生活の場所も必然的に幼虫のエサがある場所ということになります。市内の場合、雑木林がその場所にあたります。
 
  市内のヤママユガ科の一生は、そのほとんどを雑木林に依存しています。卵を産み、幼虫が育ち、マユをつくってサナギになるのは雑木林で、成虫だけが時に林の外に出て街燈などに飛んで行きますが、それでも卵を産む時は再び雑木林に戻ります。雑木林という場所は、それだけでひとつのまとまった環境と見ること ができ、雑木林だけで見られる動植物が多く知られていますが、市内のヤママユガ科の蛾もそんな動植物のひとつとして見ることができるわけです。
 

市内のヤママユガ科の今後

  かつては、市の中部の住宅街でも、街燈に飛来する大きなヤママユガ科の蛾が見られたといいます。最近では、そういうこともなくなってしまいましたが、その理由は、やはり雑木林の減少に求めることができそうです。
 
  今でも大町や大野町、柏井町一帯にはまとまった雑木林がありますが、市の中部に近いあたりでは、雑木林は少しずつ姿を消し、あるいは分断されたり規模が小さくなったりしています。翅があって飛ぶことができるとはいっても、ヤママユガ科の蛾の移動能力など知れています。生活の場となる環境が失われれば、ひとたまりもありません。
 
  広範囲に林が残っている大町公園でも、ヤママユガ科の蛾を見る機会は、年をおうごとに減ってきています。かつては、夏になると動物園の建物に、毎朝のようにヤママユガ科の蛾がペタッと止まっている姿が見られました。大町公園の施設自体が林を切り開いてつくられたものなのであまり大きなことは言えませんが、この数年、減少傾向にあるという感じは否めません。ヤママユガ科の蛾には、ただ「大きい蛾」というだけではなく、雑木林という環境を指標する指標生物としての役割も期待できそうです。

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街かど自然探訪



東浜 海浜植物の観察ポイント!

カット(sz564.gif、約6KB)
  工場地帯の中の東浜には、船橋海浜公園の浜から続く浜辺があります。
 
  もちろんここは人工の海岸ですが、市内で唯一東京湾に直接面した砂浜海岸でもあります。市川市の部分は、あまり整備されておらず荒れた感じですが、海浜植物の様子を観察するには、適した場所です。
 
  汀線ぎりぎりまで生えているイネ科のハマニンニクの群落を見ると、砂の中をはう地下茎や細いたくさんの根が砂を抱き込み、砂が移動するのを植物が防いでいるのがわかります。

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レッドデータブック掲載種紹介



キンラン  分類:種子植物 ラン科
ランク:絶滅危惧2

カット(sz565.gif、約6KB)   初夏の雑木林で黄色い花を咲かせるラン科の草本です。市内ではいくつもの林で見ることができ、数少ない種類という印象はあまり受けません。しかし、樹林性のラン科植物は総じて環境悪化と乱獲のダブルパンチを受けていて、本種も人目につく場所にある株は掘り取られることが多いようです。
 
  林を守ること、林の管理を適正に行うこと、そして野生生物に対するマナーを高めることが望まれます。

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くすのきレポート



No.1今回の観察は…

『4月中旬から5月上旬、葉がいっせいに更新しました』

カット(sz566.gif、約14KB)   このコーナーでは、街路樹のクスノキを舞台にそこで観察されるできごとを紹介します。
 
  今回は、葉の更新です。それは、クスノキの一年の中でももっとも印象的なできごとです。クスノキは常緑樹とはいうものの、年一回、古い葉をいっせいに落として新葉を伸ばします。ごく短期間に瑞々しい緑に移り変わる様子は、クスノキならではの美しさです。

(情報提供:M .M .さん)


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わたしの観察ノート No.38



動物園より
南大野より
北方遊水池付近より
国府台より
小塚山市民の森より
真間より
新田より
中山法華経寺より
原木より
◎全般に気温が高めの春でした。その一方で日照は少なめでした。

 

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