◆  市川自然博物館だより  ◆

第58号 (1998年10・11月号)

特集「いちかわの蛾」 4

外国からやってきた蛾

市立市川自然博物館 1999年3月31日発行

  特集記事 街かど自然探訪 レッドデータブック掲載種紹介 くすのきレポート  観察ノート





特 集 タイトル




いちかわの蛾 4 外国からやってきた蛾

  人間の社会活動が活発になり、外国との貿易が盛んになるにつれて、本来、日本には生息していないはずの昆虫が日本に住み着くようになりました。いわゆる帰化昆虫です。蛾の一種であるアメリカシロヒトリは、その代表的な存在としてよく知られています。今回は、帰化昆虫という観点で何種類かの蛾をご紹介します。

古くに帰化した蛾

  日本に帰化した年代が最も古いのは、イッテンオオメイガ(サンカメイチュウ、図1)という種類です。稲の害虫(大害虫)なので決して歓迎されているわけではありませんが、少なくとも、すでに江戸時代には帰化していたと言われています。おそらく、稲とともに日本に入ったと思われます。
 
  そのほかにはアメリカシロヒトリ(図2)、サツマイモノメイガ(図3)、ジャガイモキバガ(ジャガイモガ)といった種類があり、いずれも戦中から戦後間もなくにかけて、つまり、今から50年以上前の昭和20年前後に帰化しました。このうち、サツマイモノメイガはサツマイモとともに、アメリカシロヒトリとジャガイモキバガは、戦後、日本に駐留した米軍のさまざまな物資とともに日本に来たと考えられています。いずれの種類も、国内では樹木や農作物の害虫です。
 
  検疫などが不十分だった古い時代には、もっと多くの蛾が日本に入り込んだと思われます。しかし、気温や餌などの条件が国内の環境では不十分であったため、定着できなかったと想像されます。
 

図1.イッテンオオメイガ  

イッテンオオメイガ(sz581.gif、約3KB)

図2.アメリカシロヒトリ(斑点型)

アメリカシロヒトリ(sz582.gif、約3KB)

図3.サツマイモノメイガ

サツマイモノメイガ(sz583.gif、約3KB)

最近、帰化した種類

  近年の目ざましい物流の発達は、新たな種類の帰化を生み出しました。検疫などの対策では完全には防ぎきれないようで、シバツトガ(図4)、ナスノメイガ、レイシヒメハマキ、ガマキンウワバ、マンゴーフサヤガといった種類や、市川市 内でも記録があるヒロヘリアオイラガ(図5)、ニセタマナヤガ(図6)などが新たに帰化しました。
 
  これらの種類は、「ナス」「レイシ」「マンゴー」といった名が冠されているように、その多くが輸入植物にともなって日本にやって来ました。南北に長い日本列島の場合、例えば九州や沖縄に帰化した種類が関東や東北などでも生息できるということは稀ですが、それでも種類によっては、高速化した全国ネットの流通網に乗って急速に分布を広げることがあるようです。港の周辺から徐々に分布を広げていくといった、かつての広がり方とはだいぶ様相が違うようです。
 
  ところで、帰化種が分布を広げると、それにともなって在来種が衰退するといったことがよく言われます。在来種のタンポポと帰化種のタンポポ、メダカとカダヤシなどがよく例にあげられます。在来種と帰化種が本当にそういった排他的な関係にあるのかについては異論もあると思いますが、少なくとも蛾について言えば、帰化種の増加と在来種の減少とが相関的に見られたことは、これまでありません。それは帰化種が、農地や街路樹といった人為的な環境をおもな生息場所としているからなのかもしれません。

図4.シバツトガ  

シバツトガ(sz584.gif、約2KB)

図5.ヒロヘリアオイラガ

ヒロヘリアオイラガ(sz585.gif、約2KB)

図6.ニセタマナヤガ

ニセタマナヤガ(sz586.gif、約5KB)

 

市川市での事例

  市川市内での事例を見ると、大きく3つのタイプがあることがわかります。すなわち、いま現在増加している種類、増加の後、減少に転じている種類、一時的に見られたものの、結局定着しなかった種類です。
 
  いま現在増加している種類としては、ヒロヘリアオイラガとニセタマナヤガをあげることができます。いずれも、比較的最近、帰化した種類です。
 
  ヒロヘリアオイラガの市内での初記録は平成元年です。樹木に発生した幼虫によって、市内での生息が確認されました。
 
  その後は、毎年9月〜10月頃にサクラなどの街路樹で発生が見られ、市内全体では増加の傾向にあるようです。この蛾はいわゆるイラガの仲間で、幼虫には毒刺があります。そのため、幼虫に触れるとかなりひどくかぶれます。ですから、衛生害虫という視点でも注目する必要があります。
 
  ニセタマナヤガは、平成6年に、蛾の夜間調査(燈火採集)時に飛来した成虫によって、市内での生息が確認されました。その後市内でも定着し、数も増加しているようです。
 
  これらは、市内に定着してまだ間もないので、今後、増加傾向が続くのか、あるいは減少に転じるのか、減少するとしたらそれは防除によるものなのか、自然に減少するものなのか、そういった点はまだ全くの未知数です。
 
  2つめのタイプ、増加の後、減少に転じた種類とは、すなわちアメリカシロヒトリのことです。この蛾は、昭和20年に東京都で発生した幼虫によってはじめて国内での生息が確認され、そこから羽化した成虫が周辺に分散し、次第に広まっていきました。市川市内では昭和23年に初めて生息が確認されてから、毎年のように街路樹などで幼虫の発生が繰り返されています。
 
  一時の増加傾向にくらべると、近年、アメリカシロヒトリの発生は沈静化し、むしろ減少傾向にあるようにさえ感じられます。これは国レベルで薬剤散布などの駆除対策が実施されたことが大きな要因です。つまり、アメリカシロヒトリは国内へ帰化してから各地で大発生したものの、事前の予防や駆除といった人為的な要因によって現在は発生が抑えられているわけです。仮に各種の対策が止められた場合に再び大発生するのかどうかはわかりませんが、少なくともいま現在においては、サクラなどの植栽木ではモンクロシャチホコやオビカレハといった在来種の幼虫の方が多く発生するようになりました。
 
  一時的に見られたものの、結局定着しなかった種類としては、ワタアカミムシガがあげられます。市川市内では昭和30年に初めて記録されましたが、その後はまったく確認されていません。名前のとおり幼虫はワタやオクラといったアオイ科植物を餌としていますが、発見のきっかけとなったワタの産業的な栽培が市内や近隣の地域で行われなかったことが定着まで至らなかった原因かもしれません。この例のように植物とともに入り込んだものの定着できずに消えてしまった蛾は、じつは相当数にのぼると思われます。

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街かど自然探訪



平田 平田緑地のクロマツ

カット(sz587.gif、約17KB)
  中山から市川にかけて、市川砂洲と呼ばれる細長い砂地の土地があります。かつては敷地の境界や、住宅や畑を取り囲むたくさんのクロマツが植えられていました。住宅が密集してくるとクロマツは減り、現在は神社の境内や道沿いに点在しています。
 
  京成線菅野駅の近くにある平田緑地は、直径が50pを越えるクロマツが幾本もまとまって生えている静かな林です。ここは、市川の木クロマツとクロマツの生える風景を楽しむことができる場所です。

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レッドデータブック掲載種紹介


 

ウラギク  分類:種子植物 キク科
ランク:絶滅危惧II

カット(sz588.gif、約8KB)   干潟など、塩分がある湿地に生育します。埋め立て地などに一時的に大群落を形成することがありますが、市内の自生地である江戸川放水路ではヨシに混じって生えているのが普通です。
 
  いわゆる野菊の一種で、花は野菊のなかでも美しい部類に属します。カニやトビハゼがいる干潟と美しい野菊との、ややミスマッチな取り合わせが印象的です。干潟の埋め立てなどが影響して、各地で減少していると思われます。

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くすのきレポート



No.3今回の観察は…

『5月12日、くすのきが開花しました。』

カット(sz589.gif、約3KB)   美しい樹形と瑞々しい緑が売り物のクスノキにも、ちゃんと花が咲きます。といっても小さな小さな花で(大きさ5oくらい)、しかも葉っぱの緑に埋もれてしまうので、なかなか気がつきません。
 
  街路樹のクスノキは、木自体が小さいので花が咲いても、ちょぼちょぼといった感じです。でも、例えば八幡の八幡宮の境内にあるクスノキなどは、満開!といった感じで多くの花を咲かせます。

(情報提供:M .M .さん)

 

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わたしの観察ノート No.40



自然観察園より

市川北高校付近より

市川東高校付近より

大柏調節池より

真間3丁目より

東国分1丁目より

小塚山市民の森より

堀之内貝塚公園より

菅野2丁目より

江戸川放水路より

◎ぐずついた日ばかりで、ついに梅雨明け宣言が見送られてしまいました。


 

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