◆  市川自然博物館だより  ◆

第59号 (1998年12・1月号)

特集「いちかわの蛾」 5

冬だけ活動する蛾

市立市川自然博物館 1999年3月31日発行

  特集記事 街かど自然探訪 レッドデータブック掲載種紹介 くすのきレポート  観察ノート





特 集 タイトル




いちかわの蛾 5 冬だけ活動する蛾

  フユシャクは、冬の寒い時期に成虫が出現し、交尾、産卵といった繁殖活動を営む蛾です。他の多くの蛾が春〜秋に繁殖を行い、冬は休眠状態で越冬するのとは対照的です。またフユシャクは、雑木林という環境と深く結びついた生活を送ることでも知られています。
今回は、フユシャクという蛾について紹介します。

冬に活動し、夏に休眠する

  フユシャクは、シャクガ科というグループに属する蛾です。シャクガ科は、幼虫がいわゆる尺取虫なので「尺蛾」と呼ばれていて、さらに9つの亜科に分けられています。一般にフユシャクとして定義づけられているのは、シャクガ科のうちのフユシャク亜科の全種と、ナミシャク亜科、エダシャク亜科の一部です。いずれも冬に成虫が出現するため、冬に見られるシャクガという意味でフユシャク(冬尺)と呼ばれています。
 
  フユシャクの一年は、他の蛾の夏と冬を入れ換えたような形になっています。すなわち晩秋から真冬、早春にかけての寒い時期に成虫が出現して産卵し、産みつけられた卵は春に孵化、幼虫は木々の若葉を食べて成長し、初夏の頃にはさなぎになってしまいます。さなぎは、いわゆる土まゆで、土の中に部屋をつくってその中でさなぎになります。一生のうちではさなぎの期間がもっとも長く、初夏から晩秋の羽化の時期までをさなぎで過ごします。言ってみれば、夏の暑い時期をさなぎの状態でやり過ごしているわけです。
 
  冬に活動し、夏に休眠するため、フユシャクの生活はちょっと変わったように見えます。ですが、活動に不適な季節をさなぎでやり過ごすという点では、その生活は昆虫としてごく普通です。モンシロチョウやアゲハチョウがさなぎで冬を越すのと、意味合いはまったく同じです。
 

図1.フユシャクの一生  

フユシャクの一生(sz591.gif、約7KB)

市川市内の雑木林で

  日本には、およそ30種類のフユシャクが生息しています。そのうち市川市内で過去記録があるのは4種類、そして比較的よく見られるのは、そのうちの2種類です。

1.ウスバフユシャク(図2、図3) 
  全国的に普通に見られる種類で、市川市内でもわりとよく見られます。成虫は12月下旬から1月上旬にかけて出現し、オスには赤褐色の翅があります。ただし個体変異も多く、翅の色彩が濃いものもいれば、逆に薄くて翅の線が目立つものもあります。幼虫は早春に出現し、やはり体色には個体変異が多く見られます。普通は緑色ですが、紫褐色や赤紫色の幼虫も混じっています。

  幼虫は樹木の葉を食べます。いわゆる多食性で、バラ科やブナ科など5科にわたる種類を食べます。中でもバラ科をよく食べるため、モモやナシの害虫として扱われることもあるようです。おもに雑木林に生息しますが、冬に街路樹のサクラの幹を探しても比較的容易に成虫を見つけることができます。

図2.ウスバフユシャク(オス)  

ウスバフユシャク(sz592.gif、約6KB)

図3.ウスバフユシャク(メス)

ウスバフユシャク(sz593.gif、約2KB)

 

図4.クロテンフユシャク(オス)  

クロテンフユシャク(sz594.gif、約5KB)

2.クロテンフユシャク(図4)   
  全国的に普通に見られます。ウスバフユシャクに非常に近い種類で、オスの成虫の翅にある斑紋や大きさもよく似ています。しかし、翅にある線の形が異なり、翅の色彩も薄茶色でウスバフユシャクとは異なります。また、クロテンの名のとおり、翅にある黒い点も大きくてよく目立ちます。

  成虫は、市内では12月上旬から3月中旬と、比較的長い期間見られ、もっぱら雑木林のクヌギやコナラなどの幹で見つかります。幼虫には緑色型と褐色型の2タイプの体色がありますが、褐色型の方が多く見られます。
 
  幼虫は多食性で、ブナ科やニレ科など6科の樹木の葉を食べ、なかでもクヌギやコナラなどのブナ科の樹木を好むようです。また、ウスバフユシャクと違い、サクラなどのバラ科を餌とすることはありません。5月上旬には土中に潜ってまゆを作り、その中でさなぎになります。
 
  なお市川市内で記録がある残り2種は、シロオビフユシャクとシモフリトゲエダシャクです。

 

飛べないメスと雑木林

  フユシャクというと、冬の明るい雑木林のイメージが浮かびます。実際、フユシャクが生活の場としているのは総じて雑木林です。それは、幼虫の餌となる樹木が雑木林に多いことによるのですが、フユシャクの場合、メスが飛べないという事情がなお一層、雑木林との結びつきを強固なものとしています。
 
  フユシャクの成虫は、オスではごく普通に翅があり、他の蛾と同じように飛ぶことができます。ところがメスでは、翅が退化していたり縮小しているため、飛ぶことができません。土中でさなぎから羽化すると、幼虫の餌となる種類の木にはい上がり、その木の幹で過ごします。オスの飛来を待って(オスを呼び寄せて)交尾をし、その木の幹で産卵し、生まれた幼虫はその木の若葉を食べて育ちます。メスが飛べないことにより、一本の木に対する依存度がきわめて高くなっているわけです。
 
  また、メスが飛べないということは、一度、その雑木林からフユシャクが失われると、なかなか復活しないことも意味します。かつて広大な雑木林が連続してあった頃は、木から木へとじわじわ分布を広げることもできたでしょう。しかし現在の市川市内のように、小規模な林が点在して残っているような状態では、林と林の間をフユシャクが移動することはオスを除いて不可能です。当然、一度失われれば復活はできません。その意味では、市川のように都市化が進んだ地域においてフユシャクは、かつての自然が豊かだった時代の雑木林の生き証人ともいえる存在なのです。

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街かど自然探訪


カット(sz595.gif、約12KB)

広尾 花見にゆこう


  広尾公園の隣に、いわゆる花木がたくさん植えられた緑地があります。特に、ウメやサクラは本数も多く、地元の人には花見の場所として有名です。他にもツバキやフジ、カラタチなど目立つものだけでも約15種類あり、一年を通して花や実を楽しめる場所になっています。
 
  緑地は、人々の憩いの場であるとともに、野鳥にとっても貴重な場所です。そこではヒヨドリが枝にとまり、ツグミが土の地面をつつく姿などが見られました。

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レッドデータブック掲載種紹介


 

オオタカ  分類:鳥類 ワシタカ科
ランク:危急

カット(sz596.gif、約6KB)   市内では、冬期、幼鳥を中心に観察されます。大町公園や、柏井雑木林、国府台〜北国分地区、行徳鳥獣保護区などの事例が多く、いずれも小規模な林や緑地なので、相互に行き来している可能性もあります。
 
  自然保護のシンボル的な鳥ですが、市内では繁殖例がありません。やはり繁殖には、まとまった面積の林が必要です。オオタカの広い行動圏の一部に市川市が含まれると考えるのが妥当なようです。

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くすのきレポート



No.4今回の観察は…

カット(sz597.gif、約7KB)『8月7日、くすのきの実が見当たりません。』

  花が咲けば、当然、実がなります。クスノキの実は直径7o程度の球形で、夏の未熟な時は緑色、秋になって熟すとつやのある黒色になります。
 
  M .M .さんの観察では、民家の大木のクスノキでは実がなっていたのに街路樹では見当たらない。葉も小さい……とのこと。やっぱり木が小さいと、花も少ないし実もつきにくくなります。街路樹の宿命かもしれません。

(情報提供:M .M .さん)

 

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わたしの観察ノート No.41



自然観察園より

柏井雑木林より

国府台〜北国分あたりより

菅野より

江戸川放水路より

◎何度か台風が列島を襲いましたが、直撃はありませんでした。


 

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