◆  市川自然博物館だより  ◆

第60号 (1999年2・3月号)

特集「いちかわの蛾」 6

蛾と環境

市立市川自然博物館 1999年3月31日発行

  特集記事 街かど自然探訪 レッドデータブック掲載種紹介 くすのきレポート  観察ノート





特 集 タイトル




いちかわの蛾 6 蛾と環境

  蛾の幼虫は、翅をもつ成虫と異なり、ごく限られた移動能力しかありません。そのため、卵は餌となる植物が豊富な場所に産みつけられます。幅広い植物を餌とする蛾では産卵適地も多くありますが、特定の植物しか食べない蛾では産卵の場所も限られてしまいます。今回は蛾と環境の関連を取り上げました。

図1.ヌマガヤとシロフコヤガ

ヌマガヤとシロフコヤガ(sz601.gif、約8KB)

湿地の蛾

 湿地に生息する蛾には、特定の植物だけを餌とする傾向が強くあります。市川市内で記録された種類について見ると、下記のようになります。

・ヨシだけを食べる  →  タテシマノメイガ、スゲドクガ
・カサスゲだけを食べる  →  チャバネツトガ
・ガマだけを食べる  →  ガマヨトウ
・イ(イグサ)だけを食べる  →  イグサヒメハマキ
・ヤナギタデだけを食べる  →  ギンモンアカヨトウ
・ヌマガヤだけを食べる  →  シロフコヤガ

 また、何種類かの植物を食べる蛾にしても、例えばヒメマダラミズメイガが食べるのはスイレン、ハス、トチカガミ、ウキクサ、ヒシ、デンジソウといった池や湿地に特有の水生植物ばかりです。したがって、これらの蛾は湿地という環境、それも幼虫自身というよりも、餌となる植物が生育できる環境がなければ生きていけないことになります。

 実際、前述したなかでもヌマガヤを食べるシロフコヤガは、すでに市川市内からヌマガヤが絶滅しているため、古い記録(1955年)しか残っていません。また、カサスゲを食べるチャバネツトガは、カサスゲ自体は各地で普通に見られるものの、県内での記録は市川市と我孫子市しかありません。これが調査不足のせいなのか、カサスゲが生育しているだけでは不十分な何か別な要因があるせいなのかは、よくわかっていません。
 

図2.ヨツボシホソバ

よつぼしほそば(sz602.gif、約4KB)

林の蛾

 林に生息する蛾は、湿地の蛾ほど餌となる植物が限定的ではありません。いわゆる多食性で、多種多様な植物を餌とすることができます。すでに特集で取り上げたヤママユガの仲間、フユシャクの仲間などがその代表ですが、なかにはヨツボシホソバ(図2)のように樹木に生えるコケを餌とする変わり者もいます。

 

 

 

 

街路樹の蛾

 街路樹=サクラ=アメリカシロヒトリという図式がかつてありました。しかし、最近はだいぶ様子が変わってきました。街路樹のサクラに大発生するのは、おもにオビカレハ(「天幕毛虫」とも称される)とモンクロシャチホコ(図3、「舟型毛虫」とか「桜毛虫」と呼ばれる)です。そのほか市内の街路樹でよく見られるものとしては、ミノムシの一種であるオオミノガ、帰化種のヒロヘリアオイラガ、ヤママユガの仲間のクスサンなどがあります。街路樹は、同一種がある程度まとまって植えられるのが普通です。したがってそれらを餌とする蛾にとっては、大発生しやすい条件が整っているともいえます。

図3.モンクロシャチホコ

モンクロシャチホコ(sz603.gif、約4KB)

図4.ユウマダラエダシャク

ユウマダラエダシャク(sz604.gif、約4KB)

庭や公園の蛾

 庭や公園で暮らす蛾は、要するに害虫です。市川市内でもよく使われるマサキの生け垣にはユウマダラエダシャク(図4)がよく発生します。つやのある黒色をした幼虫はいわゆる尺取虫で、マサキの葉を食害します。マサキには、ミノウスバという蛾の幼虫も発生します。

 庭木には、様々な蛾の幼虫が発生します。オビカレハ、マイマイガ、チャドクガ、オオスカシバ、ホタルガなどで、いずれも庭木の葉を食害します。

図5.イガ

イガ(sz605.gif、約10KB)

家の中に住む蛾

 気密性の高いマンションなどは別にして、他の一般的な住宅では、室内で蛾を見かけることがあります。夏の夜に網戸の隙間から入ってくることもありますが、室内で暮らす、あまりありがたくない種類もいます。

 イガ(図5)は、衣類の害虫として世界的によく知られています。名前は「衣蛾」で、幼虫が羊毛製品を食害します。また、羊毛製品の繊維をかみ切ってミノムシのように巣を作り、巣の周辺を糞などで汚します。野外での生活の詳細は不明で、原産地すらわかっていません。衣類とともに世界中に分布を広げました。 ジュウタンガという種類もいます。もちろん「じゅうたん蛾」で、じゅうたんや毛布の毛を食べ、毛の間に糸を張って巣を作ります。ただし、こちらの方はイガと違って日本国内での記録はほとんどないようです。

 また、コメシマメイガなどのメイガ類は、家の中の乾燥食品などを食べます。

都市化が進む市川の蛾

 蛾の生存には、幼虫の餌となる植物の存在が不可欠です。市川のように都市化が進行している地域での蛾の消長は、すなわち餌となる植物の消長と言っても過言ではありません。そういう観点で市川の環境と蛾の関連をとらえると、つぎのようなことが言えそうです。
 
 まず、急速に生息場所が狭められている種類がいます。湿地の蛾です。先に述べたように湿地に暮らす蛾の多くは、単一の種類の植物を餌としています。言い換えれば、別の植物への乗り換えができないわけです。ですから湿地が埋め立てられれば、餌もろとも消えていく運命にあります。湿地の環境が残されている大町公園の自然観察園では、スゲドクガの幼虫を簡単に見ることができます。しかしこれは、市全体からすると珍しいことなのかもしれません。
 
 一方で、生息場所を拡大している種類がいます。庭木や街路樹などの植栽木を餌とする種類です。市川における都市化とは、すなわち住宅地の拡大です。良好な住宅地が整備され緑豊かに彩られれば、その緑を餌とする種類が増加するのです。しかも多くの場合、何種類もの木を餌とできるので、そうそう餌にも困らないはずです。人為的な防除を施さなければ、今後も増加の一途をたどると思われます。
 
 蛾は、昔から人々の身近にいました。決して好かれる存在ではなかったので誰も種類までは気にしませんでしたが、都市化の進行によって、身近に蛾はいてもその種類組成はガラリと変わってしまったのかもしれません。

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街かど自然探訪


カット(sz606.gif、約15KB)

福栄 住宅に居候するコウモリ


  住宅が密集する行徳ですが、広い水辺と湿地を合わせ持つ行徳野鳥保護区に隣接する福栄の住宅地では、いろいろな生き物が保護区との間を行き来しています。
 
  特にアブラコウモリは、昼間は住宅の天井裏や戸袋の中などに居候して休息し、夕方になると保護区の開けた水辺に飛来して昆虫などを捕食します。2つの場所をうまく利用して、生活しているといえます。他にも蛇やクサガメ、ヒキガエルなどが時々庭先に現れるそうです。

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レッドデータブック掲載種紹介


 

カワモヅク類  分類:紅藻類 カワモヅク科
ランク:準絶滅危惧

カット(sz607.gif、約7KB)   海藻と同じ藻類で、海ではなく淡水の水辺に生育します。水質的にもある程度のきれいさが必要で、市内で確認されているのは大町公園の自然観察園だけです。
 
  カワモヅク類に限らず、淡水に生育する藻類や水草は各地で激減しています。水質悪化や河川整備などの影響だと言われています。自然観察園でも、カワモヅク類の量は確実に減っています。生活排水の混入やコイに与える餌による水質悪化が原因のひとつと思われます。

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くすのきレポート



No.5今回の観察は…

カット(sz608.gif、約4KB)『10月、くすのきの枝払いが行われました。』

  街路樹は、クスノキに限らず定期的に剪定(枝払い)が行われます。見通しの確保や、大きさの調整など、どうしても必要な作業です。アオスジアゲハの幼虫のことが気になって、業者の方に聞いてみたそうです。
 
  「青虫がついてませんか?」
 
  「刺す虫なら、たまにいるけど……」
 
  残念ながらアオスジアゲハの幼虫は、手に入らなかったそうです。

(情報提供:M .M .さん)

 

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わたしの観察ノート No.42



自然観察園より

市川北高校付近より

こざと公園より

大野町より

柏井雑木林より

本北方より

江戸川放水路より

塩浜沖より

◎雨がちの夏から一転、11月は記録的な少雨となりました。


 

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